汐丘駅前に降り、改札口にあるアナログの時計に目をやる。時刻は午前9時半を過ぎていた。
大友さんとの待ち合わせ時間よりも30分も早く着いてしまったが、仕方がない。待ち合わせ先のカフェである海猫堂は、9時過ぎには開店していたはずだ。
休日は電車の運行スケジュールが変わるため、時間に余裕を持って家を出発した。
駅に着いたと同時に電車が到着するという絶妙なタイミングだった。最近はこういうタイミングが増えてきたように思う。
休日になると電車内が混み合ってしまうから、予想以上に早く電車に乗ることができたのはラッキーだった。乗客のほとんどが僕と同じ目的地である汐丘駅だったのは意外だが。
汐丘駅に着き、小高い丘の上にある駅前の商店街を抜ける。海が一望できる展望台には、すでに多くの観光客で賑わっていた。
一ノ瀬さんに教えてもらったのだが、最近SNSで”地球が丸いことを実感できる絶景ポイント”として世界中に拡散されているらしい。この前は”恋人の聖地”とか言ってなかったっけ。
まあ商店街の人間からしてみれば、観光客がお金を落としてくれれば、どう呼んでも構わないだろう。
あらためてSNSを開き、この丘を探してみる。そして小さく溜息を吐く。
売り上げが上がったことを喜んでいた人間の中に海猫堂の店主である郁江さんが含まれていたのには、少し違和感を抱いた。
失礼かもしれないが、個人経営のカフェで儲けを意識しているお店はどれくらいあるのだろう。
たしか郁江さん達は、主人の定年退職後をきっかけに開業したと言っていた。だから資金や与暇を持て余らせていたのだろうと思う。趣味のお店を経営する郁江さん達が「売上」という単語を発することに違和感を覚える。
いや、重ねてこういう考えかたが失礼だとは思っている。でも物事を悪いように考えてしまう癖は、幼い頃から治ることはないのだ。
しかもこの癖は、最近顕著に現れるような気がする。
ネガティヴなことばかりを口にすると、周囲の人間が離れていかないから気を付けなければいけない。くだらない考察は意識的に止める。これ以上余計なことを考えても、ろくなことは起こらないのだから。
活気が集まり始めている商店街を避けるように抜け、海猫堂へと足を早める。途中でカメラを持った若者や、子連れの家族とすれ違う。
扉を開けると、いつものように、来客を知らせるドアベルが申し訳程度に鳴る。
音に気付いたのか僕の姿に気付いたのかわからないが、カウンターのテーブルを丁寧に拭いている郁江さんが僕を見つけた。
「あら、いらっしゃい。紗希ちゃんのお友達さん」
「すみません。まだ開店前でしたか」
「丁度今から開店するところよ」
郁江さんはそう言って、僕がいつも利用する1人がけ用のテーブル席を案内してくれた。
大友さんとの待ち合わせ時間よりも30分も早く着いてしまったが、仕方がない。待ち合わせ先のカフェである海猫堂は、9時過ぎには開店していたはずだ。
休日は電車の運行スケジュールが変わるため、時間に余裕を持って家を出発した。
駅に着いたと同時に電車が到着するという絶妙なタイミングだった。最近はこういうタイミングが増えてきたように思う。
休日になると電車内が混み合ってしまうから、予想以上に早く電車に乗ることができたのはラッキーだった。乗客のほとんどが僕と同じ目的地である汐丘駅だったのは意外だが。
汐丘駅に着き、小高い丘の上にある駅前の商店街を抜ける。海が一望できる展望台には、すでに多くの観光客で賑わっていた。
一ノ瀬さんに教えてもらったのだが、最近SNSで”地球が丸いことを実感できる絶景ポイント”として世界中に拡散されているらしい。この前は”恋人の聖地”とか言ってなかったっけ。
まあ商店街の人間からしてみれば、観光客がお金を落としてくれれば、どう呼んでも構わないだろう。
あらためてSNSを開き、この丘を探してみる。そして小さく溜息を吐く。
売り上げが上がったことを喜んでいた人間の中に海猫堂の店主である郁江さんが含まれていたのには、少し違和感を抱いた。
失礼かもしれないが、個人経営のカフェで儲けを意識しているお店はどれくらいあるのだろう。
たしか郁江さん達は、主人の定年退職後をきっかけに開業したと言っていた。だから資金や与暇を持て余らせていたのだろうと思う。趣味のお店を経営する郁江さん達が「売上」という単語を発することに違和感を覚える。
いや、重ねてこういう考えかたが失礼だとは思っている。でも物事を悪いように考えてしまう癖は、幼い頃から治ることはないのだ。
しかもこの癖は、最近顕著に現れるような気がする。
ネガティヴなことばかりを口にすると、周囲の人間が離れていかないから気を付けなければいけない。くだらない考察は意識的に止める。これ以上余計なことを考えても、ろくなことは起こらないのだから。
活気が集まり始めている商店街を避けるように抜け、海猫堂へと足を早める。途中でカメラを持った若者や、子連れの家族とすれ違う。
扉を開けると、いつものように、来客を知らせるドアベルが申し訳程度に鳴る。
音に気付いたのか僕の姿に気付いたのかわからないが、カウンターのテーブルを丁寧に拭いている郁江さんが僕を見つけた。
「あら、いらっしゃい。紗希ちゃんのお友達さん」
「すみません。まだ開店前でしたか」
「丁度今から開店するところよ」
郁江さんはそう言って、僕がいつも利用する1人がけ用のテーブル席を案内してくれた。