書店でのアルバイトがなければ、身体を動かすタイミングなんて皆無(かいむ)だ。

長時間同じ姿勢で過ごすデスクワークは全身の血の巡りを悪くし、脳の動きも鈍らせる。

ただ、だらしない身体になると、ますます自分が嫌いになるから、気分転換に外を歩いたり、自重トレーニングをしたりして代謝を上げるようにはしている。

遅番の今日はお昼前に起床しても夕方のバイトには十分間に合うが、アルバイトまでに今日の仕事をこなしてしまわなければならない。

連日の疲れからか、2時間ほどしか仕事に集中できなかったことを後悔しながら上り方面へと向かう電車に乗る。

最寄駅から2つ目の浜岡駅(はまおかえき)を降り、そこから歩いて15分ほどのところにかもめ書店はある。

海猫堂がある汐岡駅(しおおかえき)ほどではないが、浜岡駅も普通電車しか停車しない小さな駅だ。

駅周辺は地元住民の生活の基盤を支える場所になっているらしく、昔ながらの八百屋や金物屋などが点在している。

ただ、駅から歩いて30分ほどのところに中規模のショッピングモールが建設されてから、地元の小売店は苦戦しているように見える。

この一体がシャター街にならないよう、食料品の買い物はこのあたりでするようにしてはいるが、所詮(しょせん)はわずかな延命行為にしかならないだろう。

幸いショッピングモールの中には書店が入らなかったため、かもめ書店は訪れる人が増えたことによる売り上げ増加の恩恵を受けるという、(うま)みだけを得ることができていた。

お店の入り口から店内に入ると、すぐにレジの横に設置してあるパソコンへと向かう。このお店で働く人は、お店に着いたらすぐにタイムカードを先に通すのが通例になっている。

時計は午後3時50分。

このお店の賃金形態は時計の15分刻みで賃金が計算される仕組みとなっている。

例えばタイムカードを3時50分に通しても自動的に4時出勤となり、10分間の賃金は発生しない。また、4時01分にタイムカードを通せば自動的に4時15分出勤となり、14分間ただ働きとなる。

もちろん退勤時もそう。例えば9時29分にタイムカードを通せば、9時15分退勤となり、以下同様。

このシステムに若干の不平等を感じてしまうのは、決して僕だけではないだろう。

藤野店長を含むお店で働く人は、着替えている間に15分の区切りを跨いでしまわないよう、お店に着くと何よりも先に出勤登録を済ます。

出勤登録を済ますと、丁度お客さんへの案内を終えたパート従業員の松田さんに挨拶をし、バックヤードの奥にあるロッカーへと向かう。ジャケットをハンガーにかけてからロッカー入れてあるエプロンを付け、事務所へと向かう。