閉店まで1週間と差し迫った今、僕ら閉店作業メンバーの作業は連日終電間際まで続くいていた。

藤野店長や他店から応援で来た社員やアルバイトの人達、そしてかもめ書店で働くパートやアルバイトのスタッフ。かき集められた人間は時間が許す限り返品や什器の撤去を作業を進める。

あえて訊かないようにしていたかもめ書店が閉店する理由は、作業を続けているうちに嫌でも耳に入ってきた。

理由はかもめ書店よりも好条件のテナント契約を結ぶ会社が現れたからだった。

電子書籍やネット通販の普及、加えて活字離れが進む書店業界は衰退をたどる一方だが、かもめ書店は、その逆風の中でも上手く地域に根付いたお店として長年続いていた。

だが建物の所有者が2代目に引き継がれると、状況は一気に変わってしまったらしい。2代目は年齢が若く、改革精神に溢れていたため、お店のある土地をより有効活用しようという意識が強く働き、より多くの収益を得ようと全国的に展開している大手書店を呼び込んだのだ。

どこまで本当なのかわからないが、大手書店はかもめ書店の約2倍の賃料を易々と受け入れたため、2代目はかもめ書店に違約金を支払ってでも早急な撤退を要求したらしい。

簡単に言うと僕達は追い出されたのだ。

この街から書店が消えるわけではないし、新いお店はカフェが併設されていることで有名なお店だったため、お客さんからすれば悪いことではないのかもしれない。ただ、そんなこと僕らにとっては慰めにもならないどうでもいいこと。

僕らの雇用期間はお店の閉店と撤退作業が完了するまで。

撤退が完了したら、もう僕らは必要ない。

もちろんこれは株式会社かもめ書店が決めたこと、数字という無機質なものを追う店舗の運営者と会社側が決定した事を血の通った僕らに言うのは藤野店長の役割だった。

残酷な仕事だと思った。社会の摂理をまざまざと見せつけれられたような気がした。

それ以降、松田さんを含むパートタイムで働く人たちは、これまでの仕事に対する姿勢が変わってしまったように見えた。

仕事をぞんざいにこなすとか、そういう不貞腐れたようなことをするわけではなかったが、「どうせなくなってしまうから」という口癖が目立つようになり、今まで感じていた使命感というものを微塵(みじん)も感じなくなり、代わりに溜息が目立つようになった。

これまでのような居心地のよさはもうない。

特に繊細な一ノ瀬さんは重苦しい空気を敏感に感じ取ってしまったらしく、体調が芳しくない様子が続き、ひどい時は出勤してからすぐに立っていられなくなり、早退してしまうことも何度かあった。