翌日からのかもめ書店での仕事内容は、予想通りガラリと変わってしまった。

お店は通常通り営業しているため、営業に関わるメンバーと閉店作業をするメンバーとに別れ、僕は後者となった。

お店に並んでいる商品は取次や出版社に返品をしなければいけないため、売り場に並べている書籍を片っ端から段ボールに詰め込み、バックヤードへと並べていく。そして山のように積まれた段ボールは、夜間にトラックが引き取る。

ある程度の肉体労働は覚悟していたが、書籍を隙間なく詰め込んだ段ボールは相当重く、デスクワークですっかり訛りきった身体がすぐに悲鳴をあげた。

何度も持ち上げているうちに、歩きながら老人のように腰を叩く仕草が増えていたようで、一ノ瀬さんと松田さんからは度々心配された。

一応は営業をしているため、雑誌やコミックなど売れ行きのいい商品の撤去は後回しにし、専門書や理工書など一定の人しか購入しない商品の売り場を優先的に撤去する。

専門書コーナーは五十嵐さんが少しずつ手を加えてくれている棚だったため、自分が管理していた売り場を自らの手で壊している五十嵐さんの後ろ姿を見ると、()(たま)れない気持ちになった。

空っぽになった棚が増えるにつれ、かもめ書店に漂う空気は重くなっていった。

気持ちを処理できないまま自分たちでお店を壊す辛さと、物理的な肉体疲労。加えて営業に関わるメンバーはお客さんへの対応に追われることになった。

大半のお客さんは労いの言葉をかけてくれたり、僕らのこの先を心配してくれたりしたが、一部の人間は歪んだ感情を処理しきれず、僕ら店員にぶつけた。

せめてもの救いだったのは、定期購読や注文をしてくれるお客さんの大半は、謝罪の連絡をした際に、心からのお礼を言ってくれたことだった。

中にはわざわざお店に駆けつけてくれた人もおり、その中に、この前大友さんがぶち切れたお客さんがいたのには驚いた。

意外な人物からの温かい反応を目の当たりにすることができたのは、皮肉にもお店がなくなるというこの状況になってから。

失ってからようやく気が付く。そういう風にできているんだ僕らは。