「先生!」
俺の質問には答えようとせずはぐらかす先生に苛立って詰め寄った。しかし、先生はまったく態度を崩すことなく「まあ落ち着け」と苦笑しながら俺の肩を叩いた。
「悪いが、俺の口からは言えない。誰が金賞を取ったのか、それは『部長』であるおまえ自身が確認するべきことだからな」
「っ……」
「今年の展示会はちょうど二週間後から。入賞者は無料で入れるし、行ってこいよ」
もうほぼ、確実だった。
間違いない。金賞は、鈴だ。
自惚れているわけではないが、俺を追い越す可能性があるとしたら彼女しかいない。
それこそ次点を死守し続けていた鈴が今年もコンクールに応募したというのなら、その可能性は充分、有り得る。
むしろ、ここでぽっと出の高校生が出てくるのだけは勘弁してほしい。
二週間。──二週間も、待たないといけないのか。
俺はおずおずと掴んでいた先生の腕を離して、数歩下がった。すみません、と口籠りながら謝ると、ぽんぽんと小さい子どもにするように頭を撫でられる。
「……?」
「卒業、おめでとう。春永」
「っ、あ、ありがとうございます」
「こんなこと言うのは、あんまり褒められないんだがな。今年に限り、おまえは世界一幸せ者な卒業生だと思うよ。本当に、美術部の部長がおまえでよかった」
この期に及んで、どういう意味だ。
言葉の真意が汲み取れずにその場に立ち尽くす俺を見て、先生は朗らかに笑う。
そして確信を告げることもなく、そのまま「じゃあな」と俺の横を抜けて職員室を出ていってしまった。
呼び止めるほどの気力も残っておらず、眩暈を覚えながらそのうしろ姿を見送る。
握りしめてしまったせいで寄れた手紙を、俺はゆらゆらと見下ろした。
「……鈴」
彼女がいなくなっても色づいたままの世界は、なんとも皮肉でしかない。
でも、それこそが鈴が生きた証なのだと俺は自分に言い聞かせる。
もしも、もう一度。もう一度、彼女に会えるのならば。
──そのとき俺は、同じ選択をできるのだろうか。
◇
展示会は隣県で行われた。開催期間は四月末まで。その展示会が終了し一ヶ月後、ふたたび都内にて、全国の金賞から銅賞までの作品が展示されることになる。
だが、都内展示まで待っている余裕はない。
俺は初日に隼と、なぜか女子三人と共に隣県の展示会場へと向かっていた。