なあ、ひな。

 なんで俺はあの時、夢を諦めたんだろうな。こんなに理不尽な世の中でも、必死に自分を信じ続ける人だっていることを知ってながら、「自分は特別な理由だから」だなんて適当に逃げていた。

 

 ___私の代わりに、夢、叶えて。



 彼女が最期、俺に向かって呟いた声を、今でも鮮明に覚えている。
 ひなが、俺に託したものを。運命を。

 全てが、俺を奮い立たせたんだ。


 「泉くん……!?どこ行ってたの!」


 玄関の扉を開けるなり、ぐちゃぐちゃに涙で濡れた顔を、俺の胸に押し付ける義母。

 気づけば歩いていた家路。
 きっと、ひなが「いい加減帰って!」なんて怒っていたのだろうか。

 ひなが託したものを、俺は繋いでいかなければいけない。どんな状況でも、生きているだけで。未来があることはとても幸せなことなんだから。


 「……ごめん。……母さん」
 「っ!」


 あんた、だとかお前、だとか。義母でも母さんなんだ。
 今までの自分が何をしていたのかを改めて後悔する。
 俺は、ゆっくりと母さんの背中に腕を回すと、呟いた。

 「……俺の心配してくれて、ありがとう」

 そう言えば、少しびっくりしたように母さんは俺から離れて、笑った。

 「……どこに行っていたんだ、泉」
 「……ごめんなさい」

 時刻は十二時過ぎ。
 時間軸はどうやら止まっていたらしい。
 こんな夜中にまで拗ねていた自分が、とたんにバカらしく思えるくらいだ。

 「父さん。……こんな俺を捨てずにずっと育ててくれてありがとう」
 「……泉」

 父さんは、それっきり無言だった。
 こんなに贅沢な暮らしがあって、他に何がいるんだ。俺は何が欲しかったんだ。何にイライラしていたんだ。

 ___全部、ひなのおかげかな。


 「俺、また。夢、持っていいかな」
 

 この新しい人生の一歩目は、ひなの太陽みたいな眩しい色で染めたいから。

 ひなの託したものを、俺は絶対に繋いでいくよ。



 俺が恋したあの七日間を、ひなを。


 絶対に忘れない。


 俺は生きるよ、ひな。


 変えてはいけない、決められた運命の中を。


 君に託された運命の中を___。