活発な絵美里はよその高校にも知り合いがいる。それに引き換え、珠洲は部の仲間とクラスの数人の女子との交流があるだけの地味な女の子だ、福原が、どこか哀れむように言った。

『おまえさぁ、あいつの意図に気付いてないのかよ』

『どういうこと?』

『いや、別にいいさ』

 何でもズケズケ言う福原なのにどうしたのかと思いながらも、深く考えることもなく部室に鍵をかけたのだが、福原は何か言いたげな顔をしていたような気がする。

             ☆

 そして、珠洲は高校三年生になったのだ。志望する女子大の偏差値はクリアしているけれど、油断は禁物だ。

 先週、大学の寮から帰省した加奈子がこんなことを言った。

『あたしは東京でアパレル関係の仕事につくわ。実家にある服を自由に使っていいわよ。太って着れないからさ、みんな、あんたにあげる。後はメルカリとかで売るなり、寄付するなり好きにして』

 太ったといっても、七号から九号サイズになっただけだ。センスのい礼服や浴衣、それに高価な振袖やスーツなどをもらった。同居した当初は、何かと辛辣だった加奈子ちゃんも、最近は、すっかり温和になっている。

 もう悩み事はなくなったと言いたいのだが、あの夏の出来事への後悔の気持ちが引っ掛かっている。

 あの夏の夜、拓馬君に怪我を負わせてしまった。あの夏以来、拓馬か夏祭りに参加しなくなったのは、きっと自分のせいなのだ。

 ずっと拓馬に謝るチャンスが欲しいと思っていた。絵美里のおかげで、拓馬と顔を合わせるチャンスが訪れた。勇気を振り絞ろう。

 そう決意して一人で胸を高鳴らせて、来るべき瞬間に備えていた。それなのに……。

 お祭り前夜に、絵美里から急に電話がかかってきたのである。

『あのさ、急で悪いんだけど、八幡さんの清掃、手伝ってくれないかな。剣道部の女子みんなでやるんだ。夏祭りに行くメンバーだよ』

 高校の剣道部が利用していた。山の上にあるというのに八幡様の社の境内は広かった。林に囲まれており空気はヒンヤリしている。街を一望できる山の上に建てられていて、二百段もの石段を上がらなければ辿り着けない。

 絵美里はしきりに謝っていた。

「ごめーん。珠洲、つき合わせてごめんねー」

 境内の落ち葉を拾ったり草刈をしたり、物置小屋の清掃を剣道部のマネージャー達が行なっているのだ。部外者だけども、手伝って欲しいと言われて参加していた。

「やっと、終わったよねぇ」

 この子達は夏祭りに参加する。絵美里以外の女の子と親しくはないけれど、感じのいい子達で一緒に掃除をしていくうちに仲良くなった。

(打ち解けられるように、こうやって参加させてくれたんやろな)

 珠洲は、そんなふうに受け止めていた。みんな、動き易いジャージやデニムという軽装でハァハァ言いながら長い階段を降り終えている。

 額に汗を滲ませながらホッとしていると、他の女の子達は急いでチャリンコに乗って去っていった。みんな、どこかソワソワしている。

 今夜、お祭りという事で浴衣を着る為に美容院で頭をセットしてもらう。予約の時間が迫っているというのだ。午後三時になろうとしていた。珠洲も、早く帰ってシャワーを浴びたかった。 

「ねぇ、珠洲、帰る前に記念に写真を撮ろうよ。珠洲のスマホって画質いいから、それで撮ってよ」