『伊集院拓馬っていいよね』
『演劇部の野仲真麻さんが伊集院に告白したけど断ったらしいわ。女は面倒だからキライだとか言ってたらしいよ』
『もしかして男が好きなの?』
『やーだ。そうじゃなくてぇさぁ、なんか、中学の頃に女子とトラブッたらしいの。それがトラウマになっているみたい』
『へーえ。モテるのにね、もったいなーい』
高校に入ってからの拓馬は硬派のイケメンとして注目されているけれど、石渡の人気は急降下している。彼女がいるのに浮気するような性格が災いしているのだろう。
ちなみに、大食いでデブの福原は中二の頃からスリムになっている。子供の頃は苦手だと思っていた福原とも、高校生になってからは普通に話せるようになっている。
珠洲は、ちはやふるという漫画が大好きなのでカルタ部に入っている。部員は七人しかいない。その部に福原もいるのだ。
『今だから言うけどさ、武藤、おまえって、うざい奴だったぜ』
福原は何でもズケズケと言い放つ。
『転校してきた頃はさ、死んだ魚みたいな目をしてたし、脈絡無く泣くから怖かったよ。こっちまでジメッとしてきて侵食されそうで嫌だったぜ』
母親を亡くした直後で心が病んでいた。同居する従姉の加奈子ともうまくいかなかったのだと笑いながら打ち明ける。
『へーえ、俺達は、おまえの母親が死んだ事を知らないから訳がわかんなかった。そういうのは外に向けて言えよ』
『そうだね。ごめんね』
知らないうちに周囲の人達を不快にさせていたらしい。負の感情というものは伝染するものなのだ。
珠洲の父さんはろくでなし。加奈子は忌々しげに言っていたけれど、ある時、叔母が娘に対して言った。
『加奈子、珠洲ちゃんに謝りなさい。あなたの大学の学費は珠洲ちゃんのお父さんのおかげで賄えているのよ』
毎月、珠洲の父が、かなりの額を送金していた事が分かった加奈子は、それ以来、父の悪口を言うのは控えるようになった。
加奈子は大学生になると都会で一人暮らしを始めたのだ。そのタイミングで、長く患っていた祖母も亡くなっている。叔母は介護から解放されてホッとしている。
現在の珠洲は高校二年生。これまで、夏休みは、父のいる京都に向かって父との時間を確保してきた。
しかし、今年からは叔父の家を出て父とアパートの一室で暮らしている。父は、この街の小さな運送会社に勤め始めている。
(あとは、拓馬君のことが解決したらいいんだけどな……)
福原には素直に何でも言えるけれど、さすがに拓馬への想いを相談する勇気は無かった。
『ねぇ、福原君、今のあたし、もう、そんなにうざくないよね?』
『武藤、おまえ、もうちょい自信を持ったらどうなんだよ。鏡、見た事かあるのかよ』
自分の顔に何か付いているのかと思って慌てていると、福原が怒ったように言った。
『おまえ、自分がどんだけ恵まれてるのか知らないんだな』
掃除は完了していた。ハンカチで首筋の汗を拭いながら福原がポツンと尋ねた。
『なぁ、武藤、ひとつ、聞いてもいいか? おまえ、篠原絵美里のことをどう思ってる?』
『どうって……。いい友達だよ』
『親友だと思ってるのか?』
『えっ、クラスは違うから親友というほどでもないと思うけど繋がってるよ。あたし、中学の頃から親切にしてもらってる。あたしに彼氏がいないのを心配して、他校の男子とかを紹介してくれるの。あたしは断っているけどね』
『演劇部の野仲真麻さんが伊集院に告白したけど断ったらしいわ。女は面倒だからキライだとか言ってたらしいよ』
『もしかして男が好きなの?』
『やーだ。そうじゃなくてぇさぁ、なんか、中学の頃に女子とトラブッたらしいの。それがトラウマになっているみたい』
『へーえ。モテるのにね、もったいなーい』
高校に入ってからの拓馬は硬派のイケメンとして注目されているけれど、石渡の人気は急降下している。彼女がいるのに浮気するような性格が災いしているのだろう。
ちなみに、大食いでデブの福原は中二の頃からスリムになっている。子供の頃は苦手だと思っていた福原とも、高校生になってからは普通に話せるようになっている。
珠洲は、ちはやふるという漫画が大好きなのでカルタ部に入っている。部員は七人しかいない。その部に福原もいるのだ。
『今だから言うけどさ、武藤、おまえって、うざい奴だったぜ』
福原は何でもズケズケと言い放つ。
『転校してきた頃はさ、死んだ魚みたいな目をしてたし、脈絡無く泣くから怖かったよ。こっちまでジメッとしてきて侵食されそうで嫌だったぜ』
母親を亡くした直後で心が病んでいた。同居する従姉の加奈子ともうまくいかなかったのだと笑いながら打ち明ける。
『へーえ、俺達は、おまえの母親が死んだ事を知らないから訳がわかんなかった。そういうのは外に向けて言えよ』
『そうだね。ごめんね』
知らないうちに周囲の人達を不快にさせていたらしい。負の感情というものは伝染するものなのだ。
珠洲の父さんはろくでなし。加奈子は忌々しげに言っていたけれど、ある時、叔母が娘に対して言った。
『加奈子、珠洲ちゃんに謝りなさい。あなたの大学の学費は珠洲ちゃんのお父さんのおかげで賄えているのよ』
毎月、珠洲の父が、かなりの額を送金していた事が分かった加奈子は、それ以来、父の悪口を言うのは控えるようになった。
加奈子は大学生になると都会で一人暮らしを始めたのだ。そのタイミングで、長く患っていた祖母も亡くなっている。叔母は介護から解放されてホッとしている。
現在の珠洲は高校二年生。これまで、夏休みは、父のいる京都に向かって父との時間を確保してきた。
しかし、今年からは叔父の家を出て父とアパートの一室で暮らしている。父は、この街の小さな運送会社に勤め始めている。
(あとは、拓馬君のことが解決したらいいんだけどな……)
福原には素直に何でも言えるけれど、さすがに拓馬への想いを相談する勇気は無かった。
『ねぇ、福原君、今のあたし、もう、そんなにうざくないよね?』
『武藤、おまえ、もうちょい自信を持ったらどうなんだよ。鏡、見た事かあるのかよ』
自分の顔に何か付いているのかと思って慌てていると、福原が怒ったように言った。
『おまえ、自分がどんだけ恵まれてるのか知らないんだな』
掃除は完了していた。ハンカチで首筋の汗を拭いながら福原がポツンと尋ねた。
『なぁ、武藤、ひとつ、聞いてもいいか? おまえ、篠原絵美里のことをどう思ってる?』
『どうって……。いい友達だよ』
『親友だと思ってるのか?』
『えっ、クラスは違うから親友というほどでもないと思うけど繋がってるよ。あたし、中学の頃から親切にしてもらってる。あたしに彼氏がいないのを心配して、他校の男子とかを紹介してくれるの。あたしは断っているけどね』