「あたし、夏祭りの日は、父さんと京都に行ってたの。それでね、あの日の事だけど、着物の常識を知らなかったあたしに非があるのよ! それに、拓馬君に、あんな大怪我をさせてしまって、ずっと後悔してたんだ」
「いや、武藤は悪くない。俺が、あの時、テンパッて看板に腕をぶつけたんだ。あの時、武藤が怪我しなくて良かったと思っている」
「あたし、拓馬君に嫌われてるって思ってた。お詫びの手紙を出したけども、何の音沙汰もなかったから」
「手紙……?」
拓馬は、不可思議なものを見つめるような目をしている。そして、視線を西日を受けて聳えている鳥居に向けた。
「もう帰ろうか」
「うん。そうだね」
そろそろ夕刻。こんなところにいては、お祭りの集合時間に間に合わなくなる。珠洲と拓馬は石段を降りる事にしていた。
並んで歩いた。あと少しで下にたどり着くというところで右側にいた拓馬が、こちらを見つめた。その双眸には静かな熱が宿っているように見える。
「なぁ、聞いてくれ」
目が合うとトクンと不規則に心が揺れ動いて珠洲の心に何かが入り込む。
「俺、小学生の時から、おまえのことが好きだったんだ……」
思いがけない告白に うっかり石段で滑りそうになる。
「危ない!」
拓馬が階段から落ちないように背筋を抱きと止めたので落ちなかったが、珠洲は踵を石段にぶつけてしまい、ピキッと痛みが走る。
「武藤、どうした?」
「ちょっと捻った」
「痛いのか? おぶっておりようか?」
「ううん! とんでもないよ! ちゃんと歩けるよ」
しかし、階段を往復した疲れが溜まり、脚の筋肉が悲鳴をあげている。そんな珠洲を気遣うように囁いている。
「休憩しようか。お互いに汗ビッショリだよな。このままじゃ脱水症状になるぞ」
「リュックの水筒のお茶が冷えてるよ。一緒に飲もうよ。コップ、あたしと共用になるけどいいかな?」
「いいに決まってるだろ!」
そう言うと、琢磨は冷えた麦茶をゴクゴクと豪快に飲み干したのだ。
「ああー、緊張したぜ! 初めての告白を、まさかここですることになるとは思わなかった」
「告白?」
そうだ。先刻、好きと言われて、驚いて足を踏み外したのだけれど……。
ええーーーーーっ。
「好きって、そういう意味なの! ええーっ!」
「迷惑なのか? それなら、ハッキリ言ってくれ。ずっと前から覚悟はしてる」
「拓馬君……」
彼の目は不安そうに揺れている。顔を赤らめ、まるで審判を待つように目を瞑っている。どないしたらええの。ヤバイ。頭がのぼせてしまう。頭に昇った熱が押し寄せてきてクラクラする。
人生をリセットする時が来たような気がする。子供の頃の珠洲は口下手で言いたい事も告げないまま逃げてきた。黙っていたら、本当の想いが相手には伝わらない。
「聞いて! あたしも好き! ぜんぜん迷惑じゃないよ。すごく嬉しいよ」
珠洲は、日焼けした彼の顔を見上げたまま告げる。
「拓馬君……。あたし、小学生の頃、拓馬君に給食の時間に助けてもらったこと感謝している。拓馬君は優しい人だと分かっていたよ。今夜、夏祭りに拓馬君が参加するって知って嬉しかったの。絵美里が誘ってくれたことに感謝している。絵美里って優しいよね」
すると、拓馬君は、目元を沈ませながら首を何とも言えない表情を浮かべた。
「なぁ、そのことだけど……。言っておきたいことがあるんだよ」
なぜか、拓馬君の口元が苛立ちに似た雰囲気になっている。
「いや、武藤は悪くない。俺が、あの時、テンパッて看板に腕をぶつけたんだ。あの時、武藤が怪我しなくて良かったと思っている」
「あたし、拓馬君に嫌われてるって思ってた。お詫びの手紙を出したけども、何の音沙汰もなかったから」
「手紙……?」
拓馬は、不可思議なものを見つめるような目をしている。そして、視線を西日を受けて聳えている鳥居に向けた。
「もう帰ろうか」
「うん。そうだね」
そろそろ夕刻。こんなところにいては、お祭りの集合時間に間に合わなくなる。珠洲と拓馬は石段を降りる事にしていた。
並んで歩いた。あと少しで下にたどり着くというところで右側にいた拓馬が、こちらを見つめた。その双眸には静かな熱が宿っているように見える。
「なぁ、聞いてくれ」
目が合うとトクンと不規則に心が揺れ動いて珠洲の心に何かが入り込む。
「俺、小学生の時から、おまえのことが好きだったんだ……」
思いがけない告白に うっかり石段で滑りそうになる。
「危ない!」
拓馬が階段から落ちないように背筋を抱きと止めたので落ちなかったが、珠洲は踵を石段にぶつけてしまい、ピキッと痛みが走る。
「武藤、どうした?」
「ちょっと捻った」
「痛いのか? おぶっておりようか?」
「ううん! とんでもないよ! ちゃんと歩けるよ」
しかし、階段を往復した疲れが溜まり、脚の筋肉が悲鳴をあげている。そんな珠洲を気遣うように囁いている。
「休憩しようか。お互いに汗ビッショリだよな。このままじゃ脱水症状になるぞ」
「リュックの水筒のお茶が冷えてるよ。一緒に飲もうよ。コップ、あたしと共用になるけどいいかな?」
「いいに決まってるだろ!」
そう言うと、琢磨は冷えた麦茶をゴクゴクと豪快に飲み干したのだ。
「ああー、緊張したぜ! 初めての告白を、まさかここですることになるとは思わなかった」
「告白?」
そうだ。先刻、好きと言われて、驚いて足を踏み外したのだけれど……。
ええーーーーーっ。
「好きって、そういう意味なの! ええーっ!」
「迷惑なのか? それなら、ハッキリ言ってくれ。ずっと前から覚悟はしてる」
「拓馬君……」
彼の目は不安そうに揺れている。顔を赤らめ、まるで審判を待つように目を瞑っている。どないしたらええの。ヤバイ。頭がのぼせてしまう。頭に昇った熱が押し寄せてきてクラクラする。
人生をリセットする時が来たような気がする。子供の頃の珠洲は口下手で言いたい事も告げないまま逃げてきた。黙っていたら、本当の想いが相手には伝わらない。
「聞いて! あたしも好き! ぜんぜん迷惑じゃないよ。すごく嬉しいよ」
珠洲は、日焼けした彼の顔を見上げたまま告げる。
「拓馬君……。あたし、小学生の頃、拓馬君に給食の時間に助けてもらったこと感謝している。拓馬君は優しい人だと分かっていたよ。今夜、夏祭りに拓馬君が参加するって知って嬉しかったの。絵美里が誘ってくれたことに感謝している。絵美里って優しいよね」
すると、拓馬君は、目元を沈ませながら首を何とも言えない表情を浮かべた。
「なぁ、そのことだけど……。言っておきたいことがあるんだよ」
なぜか、拓馬君の口元が苛立ちに似た雰囲気になっている。