「朝日も夜空も留学先が決まってないなら、ここをおすすめするわ。」
「ここって?」
「ここ、俺の母校!やめてよぉ、恥ずかしいなぁ!」
「まあまあ、この大学オーストリアにあるんだけどね、国立の名門校って謳われてる有名はところよ。」

 名前を聞いた事があった。

 それぐらい有名なのは知っていたが、まさか自分の父がここの卒業生なのは知らなかった。

「確かにここに入るためには、ブランクを乗り越えてベテラン勢を倒して行かなくちゃいけないわ。けど、その先にはいい経験ができるユートピアが広がってるわよ」

 2人が入れる確率は0.1%ない、と付け足すように言った。

「その0.1%未満に賭ける、賭けないはあなたたち次第よ?」

 どうしようか、落ちる方が確率が断然高いなんて、怖い。

「私はやるわ。0.1%未満に賭けるなんて楽しそうじゃない。」

 夜空はなかなかのギャンブラーだ。
 
 不自然な口角の上がり方をしている。

「いいじゃない。朝日、まだ決めなくてもいいわ。早いに越したことはないけれど。妥協だけはしないで。」
「はい。」

 解散すると俺は一目散にチェロへ向かった。

 大晦日には触れることは出来なかった。

 ケース越しに触れてみる。

「兄さん、俺またチェロをやることにしたんだ。もう諦めたいしないって決めた。頑張るよ。」

 夜遅いこともあり、そっと手を離した。

『朝日、音楽は苦になっちゃダメだ。音を楽しむんだ、それが音楽だからね。忘れないでね、僕との約束だよ。』

 ぶわっと思い出されるいつしかの記憶。

 あの時は分かっていなかったが、「()()しむ」ってそのままじゃないか。

「大丈夫だよ、兄さん。俺の狂詩曲(ルビラプソディー)の始まりだ。自由にいこうじゃないか?!」

 不自然に口角が上がった、気分だ。