その夜は某歌番組を見て、こまめに軽いものを摘む。
炬燵に潜り込みながら、ミカンを剥いて夜空の口の前に持っていくとエンドレスで吸い込まれる。
笑いを堪えている真昼と不思議そうな顔の一星。
「…ぷっ!あはは!もう無理…!朝日のミカンが全部お姉ちゃんの口に…!」
「別に俺、自分が食うために剥いてねぇし。夜空、フルーツ好きだもんな。」
「そんなこと、ないわよ。」
いや、絶対そんなことある。
口の前に持っていけば、躊躇うことなく胃袋行きだ。
「あと朝日が言いたかった『癖』って早気のことでしょう?」
「はやけ?なんだそれ?」
「会つまり弦を引いた状態が保てず、すぐに離してしまい、的に当たりずらくなることです。結構弓引きの中じゃ珍しくないことです。」
夜空はそれに中3でなってしまった。
それもこれもライバルの存在のせい。
顔が強ばる。
「朝日、私の早気は薫子のせいじゃないわ。分かって?」
「でも、あいつ!」
「今年こそ薫子に勝ってみせるから。」
薫子、それがライバルの名だ。
俺は小さく頷いた。
「そろそろ年越しね。お蕎麦を茹でましょうか。」
「私もやる!」
「ありがとう、真昼。助けるわ。」
今だけでも忘れよう。
キッチンに立つ彼女らを撮る。
「真昼、かわいい。」
「一応聞いとくけどよ、遊びじゃねぇだろ?」
「もちろん、命かけたっていいけど?」
「そうか、ならいいや。」
真昼はいつも明るくいるが、実のところそんなことない。
明るく振舞っているだけ。
我慢を強いられる生活の中で、我儘を言えず過ごしていたから。
「いっぱい我儘聞いてやってくれ。」
「!うん。…あはは!朝日、お父さんみたい!」
「うるせぇ!」
なんだか楽しそう、と少し笑った。