そういえば、兄貴が見当たらない。土曜だから仕事はないはずだ。

「兄貴はどうした？」
「？誰のこと？」

　とぼけてるのか？兄貴は夕日のことだ。

「夕日だよ。来てねぇの？」
「何言ってんの？朝日、熱で頭狂った？」
「えっ？」
「夕日さんは、交通事故でもう亡くなってるでしょう？私たちは会ったことないわよ？」

　すると、急に周りが止まった。

「は？何だよこれ…！」

　時計の秒針は止まっている。変な空間だ。

『あっ、朝日。』
「兄貴！ほら、とぼけてんのはどっちだよ。それにしても変だな。兄貴の声が変に響いて…」
『朝日は、覚えてないのか？』

　何のこと？と首を傾げると、悲しそうな顔をした。

『朝日が10歳の時だ。中学から帰ってくる時、交差点でさ。』

　交差点というワードでブワッと記憶が戻ってきた。

【今日は早く帰れた…！朝日喜ぶかな…】
『ふふっ！』
《キキィィィィ！！》
『えっ…！』

　そうだ、確か下校中に交差点で急に曲がってきた車にぶつかって…車は暴走し続けて、兄は何度も轢かれて見つかった時には、原型を留めてなかった…
　そうじゃない……！！

「でも、この前一緒に旅行行って…あいつらがおかしいんだろ？そう言えって！」

　兄貴は小さく首を横に振った。

『僕が君らの記憶を改竄(かいざん)したんだ。そしてもう、2人の記憶の中に僕はいない。2人の中の僕はもう「義理の弟の亡くなった義兄」だ。』

　そして一つ分かった。今まで俺を過去に送ってたのは兄貴だ、ということ。

「……」
『ありがとう、朝日。僕はずっと心残りだったんだ。お前が1人になってしまうことを、どうしても避けたかった。…時間切れだ、ごめんね。』
「兄貴っ！待って！行かないで！」
『大丈夫、君には、大切な人がいるはずだ。まだ、こっちにこないでね？父さんにもそう言って？僕は短い人生楽しかったよ。ありがとう、朝日…』

『僕はいつでも君のそばにいるよ。』