今日は満月が綺麗な夜だ。波に乱反射してキラキラと輝く。
「朝、日…ごめん、な、さい」
「いいから、今は自分のことだけ考えろ。」
「無理よ…何かに集中しないと、どこかに行ってしまいそうなの…お願い…」
「っ…何だ?」
とても申し訳なさそうな顔をした。身を近づけた、先程よりも強く抱きしめる。
「美優に、髪飾りを取られてしまって…海へ…」
「あっ…」
「ごめんなさい、貴方がくれたものなのに…」
そんなことは気にしていない。中坊が小遣いで買った安いリボンだったのだ。
「気にすんな、もっといいのを買ってやる。だから…」
「ありがとう…朝日までこんなに濡れて…」
「俺は大丈夫だから、」
「でも、とても温かい…」
頭を俺の胸に寄せる。小刻みに震えてるのが分かった。
「私…貴方が好きよ…」
「っ…!おい…!」
「ずっと…ずっと…大好き…」
一粒の海水が黒曜石から溢れた。それとほぼ同時で石が割れて、消える。力なく身を委ねる夜空。
「夜空…!しっかりしろ!目、閉じんな!俺だけ見てろ!」
それは眠るように美しく。遠くから高低差のあるサイレンの音が聞こえてくる。