入ると2つの世界があった。
部屋の真ん中には、仕切。
端にドアがあって、2つの部屋になっていた。
「こんなだったか?」
「いえ、私が一人になれるためにこうしたの。真昼もこの方が集中できるでしょうし。」
いつの間に、と思うと同時に、それに気づかないほどに自分も気持ちの余裕がないことに気付いた。
夜空の部屋は黒、紫、青を基調とした綺麗な部屋だ。
ベッドの横に譜面台が立っていて、机の上にはチューナーとドイツ語の本。
まさに夜空の部屋だ。
「で、どうしたんだ?」
「そこに座って?」
バックから取り出したのは、なにかの箱。
「これ、手作りじゃなくて申しわけないけれど。」
「これ…チョコ?……あ、今日バレンタインか。」
忘れてた。
「多分、私が出かける、って言ったら、朝日ついてきちゃうでしょう?」
「だから、不機嫌にレッスンって…はぁ。焦っったぁ…」
絶対ついてこないでしょう?とニコニコの夜空。
完全にやられた。
「本当は手作りを渡したいのだけれど、こればかりは無理ね。」
「いいって。くれただけ嬉しいし、夜空に危ないことしてほしくねぇし。」
パクリと一口、甘いミルクチョコが口の中で溶ける。
疲れている体は甘い物に弱い。
糖分が染み渡る感じがする。
夜空は安心したような顔をした。
「最近の朝日、どこか気張ってたわよね。」
「ん?そうか?」
「そうよ、現に工事に気付いてなかったでしょう?」
「ま、まぁ…」
何も言えない。
「声をかけても返事がなかったり、無口だったりね。」
でも、美味しそうな顔をしたから安心した。
その顔は実に美しかった。
「やっぱり笑ってる朝日が一番ね。ふふふ!」
「〜〜!!」
かあぁぁわいいな、くそ!
「の、残りは後で食うわ…」
「あら、そう?まぁ早めに食べてね。」
キスできないのが辛いな。
いっそ食べなきゃよかった。
口を念入りに拭いて、髪越しにキス落とす。
「ふふ。なんだかもどかしいわ。」
「分かったから。…一緒に寝るか?」
いいの!?、とすごく嬉しそうに言った。
俺はこんな日が続くのを願っている。
あと、残り一ヶ月。