ハロウィンも過ぎ、次はクリスマスなんて思ってる場合じゃない。

 イベント事など関係なく留学に近づく日は俺の焦りを加速させた。

 家自体そんな雰囲気ではなく、あっけなくクリスマスは終わる、そう思っていた。

 吐く息がもう真っ白なそんな夜。

 いつも通り英語の曲を歌詞を見ながら聞いていた。

 ベッドに寝転ぶな否や、そのまま寝てしまっていた。

「うわっ…昨日クリスマスだよな…」

 夜空になんて言われるか、と少し憂鬱な気持ちで起きる。

 そういえば自室にチェロは置いてないはずなのに、なぜかケースごとあるではないか。

 昨日置き忘れたか、と頭を掻いてすぐ気付いた。

 俺のチェロじゃない、真新しいチェロだと。

 急いでリビングに向かう。

「あのチェロなんだよ!」
「おぉ…!おはよう朝日。」
「おはよう、ってそんな場合じゃねぇ!」

 ははは、と笑う父が少しウザい。

 隣の部屋でも同じようなことをしているようだ。

「ほんとにあれ何?!パクってきたの?!」
「まさか。クリスマスプレゼントだよ。あのチェロ結構年季入ってたしさ。」

 見た感じそこらの安い物じゃない。

 本場の高価なチェロだ。

「え、使うの怖いんだけど。」
「ははは!ちゃんと使ってよね。」

 これは父からの期待だと捉えてない。

 これは応援だ。

 最近ピリピリしていたのを知っていたから。 

「朝日、俺はもう頑張れなんて言わないよ。もう十分頑張ってるからね。」

 もう少しだけ耐えるんだよ、彼はそう言った。

「もちろん。」

 なんだか少し気が軽くなった。

 ついでに夜空のことだが…

「新しいフルートをもらえたし、気張ってたでしょうから大丈夫よ。」

 それにやりたいこともできたしね、とセーターの襟を掴んだ。

 何事かと鏡の前で少しめくるといくつか赤い跡が。

 ほんと、やってくれたな。