「強くなった…か。」

 俺はぼーっと立っていると、その人に後ろから抱きつかれた。

「朝日?!びっくりしたかしら?」
「夜空…あぁ、すっごく。」
「ムッ…嘘ね、はぁ。私だって朝日を驚かせたいのに。」
「夜空は俺に驚いてればいいんだよ。はは!」

 歯を見せて笑うと、胸に飛び込んでくる。

 スーッと音が聞こえた。

「おい…吸うな、猫じゃねえから。」
「猫吸いならぬ、朝日吸いね。…好きな人の匂いってすごく安心するのよ。朝日の匂い、大好きなの?」

 悪びれもなく、他意もなく、そんなことを…

「大好きなのは、匂いですかぁ。はぁ。」 
「!ふふ、」

 口を押さえて微笑むと、背伸びした。

「朝日は比べ物にならないわ。大好き。」
「俺も。夜空に負けないくらい、大好きだ。」

 そのまま口付ける。

「ふふふ、朝日、右を見てご覧?」
「右って?っ!!!」

 ここは玄関、扉から覗く顔が2つ。

「続けてくれて構わないわよ!」
「俺はもう見れないよぉ…」
「と…さ、か…さ、え…な、夜空、」
「私はずっと知ってたわよ。」

 夜空は言い逃げだ、状況を整理できる前にいなくなっていた。

「あら〜面白かったのに。」
「い、いつから…」
「夜空がバックハグしたぐらいからかな。あはは…」

 それって、ほぼ全部見てたことになる。

「イチャイチャの邪魔はできないし、私はそうゆうの好きだから、もう満足よ!」
「俺は…途中から恥ずかしくなってきちゃって…」

 なぜ父が恥ずかしくなるか分からないが、俺も恥ずかしい。

 穴があったら入りたい、とはこうゆう気持ちなのだろう。

「今日…遅くなるって…」
「なんか陽翔くんが『娘の危機を感じる』って言ってきて、急いで帰ってきたのよ。」

 何が『娘の危機』だ。

 そんな勘なくなってしまえ、と心の底から思った。