町田くんのコンサートへ行ってから、早くも一週間が過ぎた。
あれから特に変わったことはなく、平凡な日常を送ることができている___はず、なのだが。
「あ、空」
「へっ!?」
廊下に響き渡るくらいの大きな声で自分の名前を呼ばれたことに驚き、つい変な声が喉から飛び出た。
「ははっ、なに『へっ!?』って」
「ごっ、ごめん、そんなことよりみんな見てるよ……!」
「え?なんかダメなことでもあんの?」
時々、平凡ではなくなる。
駆け寄ってきた町田くんと、あたふたしながら目を泳がす私に、廊下にいた人たちの視線が釘付けになるのを感じた。
でも、町田くんはちっともそんなことを気にしている様子はない。
まるで見えていないみたいだ。
これでは、焦っている私が余計おかしく思えてくる。
もういいや、と開き直って、町田くんを見上げた。
「どうしたの?何かあった?」
「や、なんもない」
「……はぁ?」
「見つけたから声かけただけなんだけど」
てへぺろ、という効果音がつきそうな表情で「ごめん」と謝る彼。こんな効果音を連想したのは、人生で初めてかもしれない。
でも、私の心臓が先ほどから尋常じゃないほど波打っているのは、みんなから注目を浴びたからだけではない。
「それにしても今日はいい天気だなー」
「雨なんだけど……」
「あれ、おかしいな」
町田くんが、理由もなく私に話しかけてくれたことだ。
軽くボケて、私からのツッコミを受けると少し嬉しそうに笑う町田くんの表情に、胸があたたかくなる。