仮想世界。そこが人々の営みの大半を占めるようになってずいぶん経つ。あらゆる人が二つの顔を持ち、自助では変えられない生まれ持った顔や姿に係わらず自在に決められるアバターで生活することに、楽しさを覚えていた。
朋美も、内向的な性格がわざわいして空想の世界にのめり込み過ぎた結果、陰鬱な顔に分厚い眼鏡をかけるようになったのを、高校生活およびその他の時間を過ごす仮想世界では、自らをかわいく装い、過ごすことで、いくらかの満足感を得ていた。
……とはいえ、生来の性格は隠しようもなく。朋美は入学したての時のオリエンテーションで、何処のグループにも入れず、一人でいたところを美咲に救ってもらった。
『ねえ、あなた。こっち来なさいよ。一人で俯いてたって、何にもいいことないわ』
一人で俯いていたって。
それは私の人生に革命をもたらした言葉だった。一人が当たり前だったのに、その日から世界が反転した。朋美は美咲と一緒に笑って、憤って、泣くようになった。高校生活が、アバターで装っているからというだけじゃなく楽しかったのは、まぎれもなく美咲のおかげだ。
だから、美咲が高野くんと付き合うことを、否定したいわけじゃない。でも、俯いてなくたって……、顔を上げていたって、変わらないことがある。それが朋美は目立たない子だということで、美咲は周りを明るくする、ムードメーカーだってことだ。そんな二人を並べた時に、高野くんだけじゃなく、どんな子だって、美咲に声をかけたがる。それは、仕方のないことなのだ。
「はあ……」
こんな性格にならなければ良かった。外見を直したのに、中身が伴わないから、高校での朋美はちぐはぐのままだった。にこやかな顔に、内向きな性格を隠しきれずに高校生活を過ごしてきた。クラスメイトだって分かった筈。朋美の本当が外面そのものじゃないってことくらい。
……高野くんも、お見通しだよね。
そんなこと、分かっている。でも、高校生活は明日で最後だ。明日が終わったら、アバターを変えちゃえば、もしその後高校の誰かとすれ違っても分からない。そういう意味では、高野くんのことで、美咲と気まずくなりにくい、最初で最後のチャンスだ。高野くんにはいい迷惑かもしれないけど、モテる男子は告白する女子が一人増えたところで、気にしないだろう。罪悪感を持ちつつも、美咲の言葉に励まされて、朋美は明日、高野に告白することを決めた。