だけど、時間がない。

 15歳の誕生日にもらった僕のMacbookと部室にある力不足なPCで二人でそれぞれ編集を進めた。必要なナレーションは彼女の声を入れた。彼女の声は、抑揚のなさが切なさを思わせる妙な透明感がある。
 僕は彼女の声を聞くたび、職人がものすごい肺活量で精巧なガラス細工を作り上げているようなイメージが毎回浮かんだ。

「手だけ写せばいけそうじゃない?」と僕はそう彼女に提案した。
「えー。ワンカットはそれで行けるかもしれないけどさ、その後が続かないよ」
「そのあとはエフェクト入れて繰り返しで30秒くらいもたせてさ」
「そのあとは?」
「えーと」
「ほら、続かないじゃん。手だけじゃ。やっぱりさ、か弱い女の子がほしい。痩せててミステリアスでクールなイメージがいい」

 彼女は健気に微笑みながら、そう言った。彼女が言ったイメージは彼女そのものじゃんって、言いたくなったけど、僕はそんなことを言い出す勇気がなくて、その感想は胸の中にとどめておくことにした。

 僕と彼女だけは番組に情熱をなぜか注いでいた。企画からロケハンまで結構しっかりやって、結構しっかりしたドキュメンタリー番組を作れそうだった。
 編集がうまくいけば、大会で賞をとって、全国大会まで行けると思えるくらい自信作だった。
 つまり、企画、構成、ロケハンまでは結構バッチリだった。その内容は全国大会常連の吹奏楽部の厳しい練習風景を密着したものだった。一つのパートの完成度を高めているところをしっかり取ることができた。

 6月初めとは思えないくらい、今日は暑かった。
 7時を過ぎて、死にたくなるような夕日が山の麓に広がる灰色の街をまるで中性洗剤で溶かすように橙色が、雲の間から直線的に照らしていた。
 街のすぐ先には海が見えた。僕と彼女はバス停には行かず、近くの大きな公園に寄り、適当なベンチに座ることにした。公園は夜に片足を突っ込んだように静かだった。
 
「ねえ、いつまでこうしていられるかな」と彼女は街と海を見たまま、そう言った。横目に見る彼女は少しだけ寂しそうな表情をしていて、僕は思わず、彼女のそんな表情に引き込まれそうになった。

「――少なくとも残り2日だね」
 僕は視線の先を彼女から、街と海に移してそう答えた。

「そんな寂しいこと言わないでよ」
「この番組作り、終わったらさ。――二人でメシ食いに行こう」
 僕がそう言い終わると彼女は微笑んだ。弱い風で彼女の横髪が揺れた。すごく、柔らかそうなその髪は、夕日で色素が薄いのがいつもよりも際立っていた。
 そして、彼女は僕の顔をじっと見つめて、何かを言いたげな表情をし始めた。

「いいよ。私、ばっちりメイクしていく」
 彼女はそう言ったあと、右手の小指を差し出してきた。だから、僕はそっと右手の小指を結んだ。

「じゃあ、俺も」
「忌野清志郎かよ」

 彼女はそう言って、指切りをほどき、僕の右ふとももをぽんと叩いた。