(……ちと困ったなあ)
龍生は、雑に頭を掻いた。
店に来ていた相棒の機嫌がもの凄く悪い。
呪詛でも吐いてんじゃねえかな。
流夜か降渡が何かしたってんならシメればいいだけなのだが、在義がイラついている相手は龍生の関われる範囲にいない。
「……行って来たんだって?」
「ああ」
神宮家の事件の関係者。
……イラついて当然か。
でも、それ以外にも理由はあるみてーだな。
在義がぽつりと言った。
「なんであの子は、あんなに自分に無関心なんだろう……」
「お前に言えた台詞でもねえ気がするけどな」
「俺は自分の生(せい)を生きている」
「流夜は生まれた時の惰性で生きている。それにゃあ俺も異論はねえよ」
あいつは、生きている理由がなかった。
生きていていい理由、ではない。
そして、理由を探そうともしていない。
「……でも、娘(じょう)ちゃんといるときは楽しそうだったぞ。生きてるの」
「………」
在義から否定はない。
それはわかっているんだろうな。
あいつが誰かを――傍にいてほしいと望んだのは、こいつの娘、たった一人だ。
降渡や吹雪との縁もただの幼馴染ではないから、切れる縁とは思っていないだろう。
続くとわかっているから望まないのかもしれないけど、流夜が自分から手を伸ばしたのは、娘ちゃんだけだ。
斎月の小娘は、ちょっと異色だから同列に語るべきではないだろうしな。
「あれは、自分を嫌ってはいねえよ。お前と違って」
「………」
応(いら)えはない。
在義は心底から『自分が嫌い』だからなあ。
在義と流夜もまた、同列に語るべきではない。
「………」
黙り込んで動かない。