『  黒淵定様

  万が一の時の為にこの手紙を託します。私達の大切な息子、夜川愛斗には生まれつき不思議な力があること以前話したわよね?

もし私達に何かあったらあの子の心に溜まった哀しい想いを一度想儀してあげて欲しいの。もちろん、この想儀のシステムは実験段階に過ぎないわ。でももしもあの子が、涙を流せずため込んだ哀しい想いを少しでも供養できたら、私達があの子の為に長年研究してきた意義が見いだせる気がするの。

この研究所で信用できるのは黒淵さんだけ。どうか愛斗を宜しくお願い致します。
               夜川月乃(よるかわつきの)

僕は一読すると手紙をたたみ封筒に仕舞った。すぐに頭に疑問と紛れない事実が浮かぶ。

一つは、両親の事故は仕組まれたものの可能性があるということ。そしてもう一つは、僕の母親である月乃は目の前の黒淵を信頼していたということだ。

手紙から顔を上げると黒淵は、にやにやとした笑みを僕に向けている。

「信じてくれたかな? 愛斗君は俺を信用できないみたいだけど、キミのご両親からの信頼は絶大でね。あとキミのご両親の事故は仕組まれたものだよ。恐らくね。ただ今更事故を他殺として捜査することは非常に難しい。何故なら気づいてると思うけどこれは政府が関わってる案件だからね」

僕は掌をぎゅっと握りしめた。

「そんなこと聞かされて僕が黙ってるとでも? 」

あてがあるわけでも何でもない。それでも両親の死が事故でない可能性を聞かされた以上、このまま黙っていることなど到底できない。

(とりあえず警察に……)

「警察に行こうってこと? 」

「なっ……」

(まさか心が読めるのか? )

黒淵はクククッと笑うと短くなったタバコをぽいと投げて踏みつぶした。黒淵の傍若無人な振る舞いにカッと血液が逆流しそうになる。

「アンタなっ! ふざけんなよっ!」

「ふざけた考えはどっちかな? 俺は心が読めるわけでも何でもないが、キミ見たいなガキの思考読むくらい朝飯前なんだよな。それに、そもそもキミのご両親がなんで政府に目つけられたか分かる? 」

黒淵からふざけたような笑顔は消え、代わりに鋭い視線を僕に向けた。その瞳は哀を秘めていた。今から何を言われるのか予想がつきそうで僕は途端に動機がしてくる。

違っていてほしい。
そうであって欲しくない。
まさか……僕の……。

「そう……愛斗、お前の為に正弘(まさひろ)さんと月乃さんは命令に背いたんだ……」

「命令……? 」

嫌な胸騒ぎは、どんどんと僕の意に反して近づいてくる。

「言ったよな? ご両親は政府機関で人間の感情コントールについての研究を行っていた。長年の研究が実を結び二人は人間の喜怒哀楽のうち『哀』を人間から排除できる薬を開発したんだ……」

「え……? 」