「……あれ? 驚きすぎて声でない? 」

「……どちらさまでしょうか? 」

僕は精一杯平静を装いながら目の前の黒いスーツの男を見つめる。どう見てもまともなヤツじゃないだろう。そもそもこんな目と鼻の先ほどの距離に居たのに全く気配がしなかった。

想儀屋(そうぎや)ですよ。」

「見ての通り《《葬儀》》は滞りなく終わったんで」

男は僕がまるでそう返事するのが分かっていたかのように薄く笑った。

「これは失礼。一般的に呼ばれている死者を葬る為の葬儀ではなく、生きている者の葬り去りたい哀しい『想い』を供養するための儀式、俺たちは『想儀』と呼んでいる。生前、君のご両親から遺言を預かっていてね、自分たちに何かあった際は、君の捨て去りたい哀しい想いを想儀にて供養してほしいとね」

僕は自然と眉間に皴が寄っていた。意味が全く分からない。

(葬儀ではなく、想いを供養する想儀……? )

「うーんとね……何ていったらいいかな。はっきり言わせてもらうと君が聴こえてしまう声を供養してラクにしてあげようって話。分かる?」

「え? どうして……そのこと……」

「おいおい、話きーてた? 君のご両親から聞いたんだって」

男は長い脚であっという間に僕の隣に来ると縁側に腰かける。そしてスーツの内ポケットからタバコを取り出した。

(うち)は禁煙なんですけど」

「そうなんだ、ごめんね。俺ニコチン依存症なんで。吸わないと死んじゃうの」

ニコチンを吸わないと死ぬ?そんなの真っ赤な嘘だ。僕は飄々とした男の態度に。嫌悪感を感じていた。

(なんでこんなやつに父さんと母さんは僕の秘密を話したんだ? そして想儀って一体……)

「で、どうする? 夜川愛斗くん」

僕はニコチンを吸って吐くを繰り返している男を真っすぐに見つめた。