──気味の悪いヤツだな……。
──ご両親が亡くなったっていうのに……。
──あの子のおかしいわ……。

(うるさい……)

──まったく辛気臭いな。帰ってからの酒がまずくなった
──早く終わらないかしら、別に此処らの風習だからって家族葬にしてくれたらよかったのに。ていうか親族誰もきてないじゃない。

(うるさい……うるさい……)

──涙の一つも流さないなんて。

(流さないんじゃない。僕の瞳からは涙がでないんだ)

声に出せない想いと無理やり押さえつけた言葉は、春の桜の花びらのように舞い落ち、夏の花火のようにそっと消えて秋の枯葉のように踏みつけられていく。そうして最後は降り積もった雪が溶けていくように心の中にだけ涙が降り注ぐ。もう何年、こうして消化できない想いを抱え続けてきただろうか?




「疲れたな……」

歯を食いしばったまま葬儀を滞りなく終えた僕は、縁側に座りようやく黒のネクタイを雑に緩めた。

「父さん、母さん……」

遺影を振り返れば確かに笑っている筈の遺影の中の両親の顔は泣いているように見えた。

「……あっという間に人間ひとりぼっちだな……」

僕は築50年の日本家屋の縁側で蒼く茂る桜の木の葉をぼんやり眺める。桜の幹に目をやればナイフで切りつけた、いくつもの傷跡がうっすらと見える。父が、僕が一つ年を重ねるたびに桜の木と背比べさせながら身長を記録してくれた痕だ。

「ふっ……二十歳まで測るとか……どうせ伸びてないのにさ……」


──「初めまして。この度はご愁傷さまでした」

(え……?)

突如桜の木の陰から出てきた人影と声に体がビクンと震えた。