──僕は小さいころから感受性の強い子供だった。
花の咲く様や空に浮かぶ雲を眺めては聞こえるはずのない声が聞こえるような気がして、一日中それらを眺めて過ごすこともあった。そしてある日、誰もいない公園で耳を澄ませば、虫や鳥が内緒話をするように小さく僕の心の底辺に響いてくることに気づいた。
やがていつからだろうか?物心ついた頃には、他人と話せば他人が僕にむける悪意だけが僕の心の中に流れ込んでくるようになり、僕はこの不思議な力がとても苦痛だった。
『ねぇ、父さん、母さん。どうして僕はほかの人の声が聴こえちゃうの』
父さんは眉を下げて困ったような顔をして、母さんは一筋の涙と共にそっと抱きしめてくれた。
『愛斗、あなたは神様がくれた特別な子供なの……大好きよ』
『何があっても父さん達は、愛斗の味方だよ』
そう言って両親は僕を大切に慈しむように大事に育ててくれた。
それでもこんな僕は他人との関りがうまくいかず、何とか義務教育を卒業したあとはしばらく引きこもった。朝日を拒むように昼まで眠り、起きれば自室の窓辺にやってくる小鳥とパンを分け合いながらたわいのない会話をして一日が終わっていく。そんな僕を両親は一度も責めなかった。両親は僕にとって唯一の理解者であり、僕の存在を無条件で認めて愛してくれる唯一無二の存在だった。
そして誰とも関りを持たないと決めて進学した大学四回生のクソ暑い夏の日だった。大学で哲学の講義を受け、バイト先のコンビニに向かっていた時、ジーンズのスマホが震えた。嫌な予感がして直ぐにスワイプすれば電話の向こうからは警察官の同情めいた声が、両親の事故死を告げた。同じ職場の二人は仕事に向かう途中、突然降り出した雨に山道のカーブを曲がり切れずガードレールを突き破って車ごと転落した。即死だったらしい。
つい一昨日まで僕に笑いかけてくれていた両親はもういない。
両親の遺影を眺めながら僕は僧侶の読経に両の拳をぎゅっと握った。悲しくて哀しくて心が押しつぶされそうだ。いまだ目の前の状況にもなぜ自分が喪主なんてものをしているのかも脳みその中で半分も理解できていない。
それなのに世間体だけで葬儀に参列した近所の住人達の心ない、心の声が僕に向けられる。
花の咲く様や空に浮かぶ雲を眺めては聞こえるはずのない声が聞こえるような気がして、一日中それらを眺めて過ごすこともあった。そしてある日、誰もいない公園で耳を澄ませば、虫や鳥が内緒話をするように小さく僕の心の底辺に響いてくることに気づいた。
やがていつからだろうか?物心ついた頃には、他人と話せば他人が僕にむける悪意だけが僕の心の中に流れ込んでくるようになり、僕はこの不思議な力がとても苦痛だった。
『ねぇ、父さん、母さん。どうして僕はほかの人の声が聴こえちゃうの』
父さんは眉を下げて困ったような顔をして、母さんは一筋の涙と共にそっと抱きしめてくれた。
『愛斗、あなたは神様がくれた特別な子供なの……大好きよ』
『何があっても父さん達は、愛斗の味方だよ』
そう言って両親は僕を大切に慈しむように大事に育ててくれた。
それでもこんな僕は他人との関りがうまくいかず、何とか義務教育を卒業したあとはしばらく引きこもった。朝日を拒むように昼まで眠り、起きれば自室の窓辺にやってくる小鳥とパンを分け合いながらたわいのない会話をして一日が終わっていく。そんな僕を両親は一度も責めなかった。両親は僕にとって唯一の理解者であり、僕の存在を無条件で認めて愛してくれる唯一無二の存在だった。
そして誰とも関りを持たないと決めて進学した大学四回生のクソ暑い夏の日だった。大学で哲学の講義を受け、バイト先のコンビニに向かっていた時、ジーンズのスマホが震えた。嫌な予感がして直ぐにスワイプすれば電話の向こうからは警察官の同情めいた声が、両親の事故死を告げた。同じ職場の二人は仕事に向かう途中、突然降り出した雨に山道のカーブを曲がり切れずガードレールを突き破って車ごと転落した。即死だったらしい。
つい一昨日まで僕に笑いかけてくれていた両親はもういない。
両親の遺影を眺めながら僕は僧侶の読経に両の拳をぎゅっと握った。悲しくて哀しくて心が押しつぶされそうだ。いまだ目の前の状況にもなぜ自分が喪主なんてものをしているのかも脳みその中で半分も理解できていない。
それなのに世間体だけで葬儀に参列した近所の住人達の心ない、心の声が僕に向けられる。