腰までの黒髪に真っ黒のワンピースに、黒のブーツを身に着けている火華が大きな赤色の瞳を僕にむけるとにこりと微笑んだ。

そして小さな掌で僕からあんぱんと牛乳を受け取ると、すぐに牛乳パックにストローを差し込みごくごくと飲み、あんぱんに小さな口で噛り付く。火華の見た目は十歳ほどの少女だが実際の年齢はわからない。

その話し方や物腰はもう少し年齢が上に見える。ただ僕が知っているのは、火華が黒淵を一緒に店舗の2階で暮らしていることと、会話はおもに黒淵とだけ。黒淵と火華と一緒に仕事をするようになって、一年経つが僕との会話はほとんどない。だから火華に関しては、黒淵以上にわからないことだらけだ。

──なぜ《《あんな力》》があるのかも。

でも、それは目の前でニコチンを堪能している黒淵にも同じことが言える。黒淵は年齢二十八歳らしいがこれも本当かどうかはわからない。

黒髪の短髪に切れ長のアーモンド形の瞳をしていて身長は百八十を超えている。職業は古書全般を扱う『おもひで古書』の店主であり、他人の想いを供養する『想儀屋(そうぎや)』を兼業している。

「愛斗、今日は一件想儀だすからな。もうちょいしたら依頼人がくるから準備しとけよ」

黒淵は三本目のタバコを吸いながら、白い煙を大きく吐き出した。

「あの……毎回思うんですけど、僕いてもいなくてもどうせ想儀だすなら、いなくてもいいんじゃないですか?」

「それどーゆー意味? 」

「だから……僕がわかるのは他人の心に巣くう悪意なわけで、他人の心がすべて読めるわけでもましてや想儀に出すほどの他人の哀しみに寄り添えるわけでもないんで」

「愛斗くんは、ほんとわかってねぇよな。そもそもだ。他人の哀しみに俺たち他人が寄り添えると思ってる時点で愛斗はまるで分ってない。そんなことできるわけないじゃん。この仕事の意味わかってる? 」

「この仕事の意味……?」

なんとなく、あの日黒淵に初めて出会ってから僕は彼の仕事を手伝うようになったが、この想儀屋の意味なんて深く考えたことなんて一度もなかった。

ただ自分の消化できない想い、捨て去りたい記憶の断片を想儀屋に頼んで供養してもらう。そうすることで必ず皆に等しくやってくる明日という日を、少しでも呼吸(いき)しやすいように。

ただそれだけかと思っていた。自分のように。

火華が立ち上がるとワンピースのお尻についた白いほこりをパンパンと払いながら僕の目の前に歩いてくる。

そしてゆっくりと大きな瞳で僕を見上げた。