鈴子がもう間もなく消滅しそうな小さくなった折り鶴を眺めながら、ふわりと笑った。

「夢を見つけるために探し続けるコトだって、貴方の立派な夢でしょう?……頑張ってね」

鈴子は両手を夜空にむかって突き出す。折り鶴が最後の力を振り絞るように小さな光を放って消滅すると鈴子の体も仄かな光の塊となって、夜空に吸い込まれるように消えていった。

(僕の……夢か)

黒淵がスラックスのポケットに両手を突っ込んだまま立ち上がる。

「……さてと、以上をもって木村鈴子様の想儀を終了致します、火華おつかれ。愛斗もね」

珍しく僕と鈴子のやり取りを静かに見守っていた黒淵が、いつものように揶揄うような視線を僕に向ける。

「てゆうか、想儀屋って、死者もくるんすね。言ってくれたらいいのに、普通にイラつきました」

「あはは。愛斗くんはまだまだだね。俺は彼女が店の中に入っていた瞬間、すぐに《《影がない》》ことに気づいたから」

「僕だってほこりが舞い上がった時、彼女の足元みて影ないのに気づきました」

「遅っ」

黒淵が大げさに体をのけぞってみせると、火華がクスクスと笑う。

「ま、いっちゃうと、俺、先週女子高生の交通事故のニュース見たばっかだったんだよね」

「え? 」

黒淵が僕を見下ろしながら真面目な顔をする。

「将来有望視されていたバレリーナの卵が不慮の事故でこの世を去ったとね。そのときテロップで映った名前が彼女だった。だからすぐにピンときたんだ。彼女、夢への想いが強すぎて成仏できてないってね。だから彼女の夢への想いを供養して彼女と共に空に還れるように依頼を受けたんだ」

「……始めからそこまで分かってたならなんで……」

黒淵が胸ポケットからタバコをとりだすと、あきれ顔でため息を吐き出した

「なんで?そんなの言わなくてもわかるでしょ?愛斗自身が気づいてくれなきゃ意味がないからね」

「ふふっ……でも愛斗……ちゃんと気づけたよね」

「火華?うん、まぁね……んっ?……えっ! 」

ふいに火華が僕の腕を引っ張って、無理やり屈ませると僕の頭をよしよしを撫でた。

「わっ……ちょ、火華やめてよ……」

火華は大きな赤い瞳を細めると、かまわず僕の頭を撫でまわしてから、すぐに離れた。

他人から褒められるのなんて初めてかもしれない。嬉しさと恥ずかしさで僕の顔はゆでタコみたいに真っ赤になった。