僕らは鈴子をつれて、いつものようにおもひで神社の境内に向かって長い石階段を上っていく。

「愛斗、そろそろジョギングでもはじめたらどうだ? 」

「うるさい……ですよ。これでも少しずつ登るペースあがってるんでいい、ですっ……」

黒淵は想儀の際は、依頼人に合わせて石階段を登るが今日の依頼人である鈴子の登るスピードが速いため、僕は着いていくのがやっとだ。黒淵はニヤッと笑うと、火華と鈴子をつれて更にペースを上げ、ものすごいスピードで駆け上がっていく。

(なんだよっ!化け物かよ! )

僕がようやく石階段を登り切って、両太ももに手を当て荒い呼吸を繰り返す頃には、黒淵はすでにカラスの白い羽を鈴子に渡し、想儀の説明も終えたようだった。

火華が鈴子にそっと近づくと、和紙でできた折り鶴を手渡す。鈴子は小さく頷くとすぐに瞳を閉じた。

僕も深呼吸しながら星空を眺める。今夜も雲一つない。見えるのは深い藍色の夜空に下弦の月がぶら下がり、数えきれないほどの星たちが競うように輝きを放っている。

(無事、供養できそうだな……)

鈴子が折り鶴に息を吹き込みカラスの羽を挿すと、折り鶴は鈴子の想いを乗せてすぐに空へむかってふわりと浮かびあがる。火華がさらに折り鶴を押し上げるように息を吐き出せば、折り鶴は星のように煌めきながら一気に天高く飛んでいく。

僕は折り鶴を静かに眺めている鈴子に歩み寄った。

「あの……」

「ねぇ見て……もうあんな遠くまで飛んでいっちゃうなんて。それに不思議……今ね、心の中がとっても軽い」

鈴子は僕と視線を合わせるとすぐに、ほっとしたような笑顔を向けた。

「あのさ……キミのこと何も知らないし分かってなかったクセに偉そうなこと言ってごめん……」

鈴子はすぐに首を振った。

「私こそ、いまからどんな夢でも描くことができて、どんな夢も自分次第で抱くことができるあなたが羨ましくて……」

僕は頭を掻いた。

「……僕はまだ夢を抱いたことがないから分からないけど、いつかキミみたいに夢中になって追い求められるような夢……見つけられたなって思うんだ。一生かかっても夢なんて見つからないかもだけど……それでも探し続けることを諦めないようにしたい」

鈴子が目を丸くするとすぐに歯を見せて笑った。

「もう見つけてるじゃない、夢……」

「え? 」