(着いたな……)
立ち止まった先には古びた二階建ての小さな建物が見える。一階の店舗の上に掲げられたブリキの看板には禿げた塗装で『おもひで古書』の文字が辛うじて見えている。
僕がガラリと引き戸を開ければ、すぐに待ち構えていた長い腕が伸びてきて、僕の掌からコンビニ袋が雑に取り上げられた。
「おっせーな、夜川愛斗くん!あやうくニコチン不足で想儀だすとこだろうが!」
「黒淵さんに叱られる筋合いないっすけどね」
僕は無駄に端正な顔をしている黒淵定を睨み上げた。
「愛斗、お前せっかくかわいい顔してんだから、もうちょいかわいい事いえないもんかね」
「僕、男なんで」
「残念だよねー、俺、女にしか興味ないんで」
僕は黒淵の軽口に心の中で舌打ちをする。確かに小さい頃はよく女の子と間違われることが多かった。身長も百七十弱しかない僕は、自他ともに認める童顔だし、どちらかといえば男性的というよりも中性的な見た目かもしれない。
黒淵は誰もいない店のカウンターに腰かけるとすぐにタバコをふかし始める。
僕は店内の唯一の出窓をこれでもかと明け開いた。ふわりと舞い込んだ風と日差しで店内のほこりが粉雪のように舞い上がった。
「おい、俺花粉症なんだけど?」
「知ってますよ。ちなみに僕は、ほこりアレルギーです」
「ほんっとかわいくねぇの」
「何度も言いますけど、僕、黒淵さんにかわいいなんて思われるなんてまっぴらごめんですから」
「はいそーですか」
僕は黒淵がカウンターに置いたコンビニ袋から、あんぱんと牛乳パックを取り出すと店の片隅の辞典が積み重なった上で体育座りをしている彼女へとそれを差し出した。
「はい。おまたせ、火華のすきなやつ」
立ち止まった先には古びた二階建ての小さな建物が見える。一階の店舗の上に掲げられたブリキの看板には禿げた塗装で『おもひで古書』の文字が辛うじて見えている。
僕がガラリと引き戸を開ければ、すぐに待ち構えていた長い腕が伸びてきて、僕の掌からコンビニ袋が雑に取り上げられた。
「おっせーな、夜川愛斗くん!あやうくニコチン不足で想儀だすとこだろうが!」
「黒淵さんに叱られる筋合いないっすけどね」
僕は無駄に端正な顔をしている黒淵定を睨み上げた。
「愛斗、お前せっかくかわいい顔してんだから、もうちょいかわいい事いえないもんかね」
「僕、男なんで」
「残念だよねー、俺、女にしか興味ないんで」
僕は黒淵の軽口に心の中で舌打ちをする。確かに小さい頃はよく女の子と間違われることが多かった。身長も百七十弱しかない僕は、自他ともに認める童顔だし、どちらかといえば男性的というよりも中性的な見た目かもしれない。
黒淵は誰もいない店のカウンターに腰かけるとすぐにタバコをふかし始める。
僕は店内の唯一の出窓をこれでもかと明け開いた。ふわりと舞い込んだ風と日差しで店内のほこりが粉雪のように舞い上がった。
「おい、俺花粉症なんだけど?」
「知ってますよ。ちなみに僕は、ほこりアレルギーです」
「ほんっとかわいくねぇの」
「何度も言いますけど、僕、黒淵さんにかわいいなんて思われるなんてまっぴらごめんですから」
「はいそーですか」
僕は黒淵がカウンターに置いたコンビニ袋から、あんぱんと牛乳パックを取り出すと店の片隅の辞典が積み重なった上で体育座りをしている彼女へとそれを差し出した。
「はい。おまたせ、火華のすきなやつ」