「愛斗には関係ないことだよ。依頼人の木村様が供養を望まれてる。だから俺たちで想儀を執り行う」
僕は唇を嚙み締めた。鈴子が僕を横目で睨む。
「さっきから何なの!放っておいて!この夢への想いのせいで苦しいの!哀しいの!」
鈴子が悲鳴のような声を出した。
(夢が苦しい?哀しい?そんなの……当たり前なんじゃないのか?! )
僕は拳を握りしめると、鈴子に向かって再び口を開いた。
「僕は夢がないからわからないけれど……夢なんて苦しくて哀しい想いを積み重ねた先にあるもんじゃないんですか!その先でようやく叶えるもんなんじゃないんですか! 」
「あなたに何が分かるの!私にとってバレリーナになることが全てだった!何よりの大切だった!だから食事制限も頑張ったし、海外のコンクールでも優勝できた!でも……もういいの。気づいたから。私には叶えられない。それに、この足だってもう使えない」
「え? 使えない? 」
僕は鈴子の足に視線を移す。さっき店内に入ってきた時も歩き方に違和感はなかった。勿論見れば鈴子の足は義足でもなんでもない。紺色のハイソックスを履いた色白の細い足が制服のスカートから二本ちゃんと生えている。
「足……? でもキミの足、不自由そうに……見えないけど」
思わずこぼれた僕の言葉に鈴子の眉間に皺が寄る
──貴方みたいに、いまからどんな未来も用意されてる人間には分からない!
(え?僕に……未来が用意されてるだと? 目標も夢も持ったことがない僕に勝手に未来など用意されても空しいだけだ! )
僕が勢いよく立ち上がった拍子に座っていた木製の踏み台がバタンと倒れる。
そして目の前の視界が粉雪が舞い上がるようにほこりで白く染まり、一瞬周りの景色が見えなくなった。
(あっ……!)
その時、何気なく鈴子に目を遣った僕は気付いた。
なぜ黒淵がこの想儀を受けるといったのか。
なぜ鈴子が自身の大切な夢を供養してほしいと言ったのか。
僕は木製の踏み台を元に戻すと黙って座り直した。
「……では今から『おもひで神社』に場所を移して木村様のご想儀を執り行いたいと思います。行きましょう」
「宜しくお願します」
黒淵が僕に一瞬視線を合わせると、満足気に唇を持ちあげながら、タバコ片手に立ち上がった。
僕は唇を嚙み締めた。鈴子が僕を横目で睨む。
「さっきから何なの!放っておいて!この夢への想いのせいで苦しいの!哀しいの!」
鈴子が悲鳴のような声を出した。
(夢が苦しい?哀しい?そんなの……当たり前なんじゃないのか?! )
僕は拳を握りしめると、鈴子に向かって再び口を開いた。
「僕は夢がないからわからないけれど……夢なんて苦しくて哀しい想いを積み重ねた先にあるもんじゃないんですか!その先でようやく叶えるもんなんじゃないんですか! 」
「あなたに何が分かるの!私にとってバレリーナになることが全てだった!何よりの大切だった!だから食事制限も頑張ったし、海外のコンクールでも優勝できた!でも……もういいの。気づいたから。私には叶えられない。それに、この足だってもう使えない」
「え? 使えない? 」
僕は鈴子の足に視線を移す。さっき店内に入ってきた時も歩き方に違和感はなかった。勿論見れば鈴子の足は義足でもなんでもない。紺色のハイソックスを履いた色白の細い足が制服のスカートから二本ちゃんと生えている。
「足……? でもキミの足、不自由そうに……見えないけど」
思わずこぼれた僕の言葉に鈴子の眉間に皺が寄る
──貴方みたいに、いまからどんな未来も用意されてる人間には分からない!
(え?僕に……未来が用意されてるだと? 目標も夢も持ったことがない僕に勝手に未来など用意されても空しいだけだ! )
僕が勢いよく立ち上がった拍子に座っていた木製の踏み台がバタンと倒れる。
そして目の前の視界が粉雪が舞い上がるようにほこりで白く染まり、一瞬周りの景色が見えなくなった。
(あっ……!)
その時、何気なく鈴子に目を遣った僕は気付いた。
なぜ黒淵がこの想儀を受けるといったのか。
なぜ鈴子が自身の大切な夢を供養してほしいと言ったのか。
僕は木製の踏み台を元に戻すと黙って座り直した。
「……では今から『おもひで神社』に場所を移して木村様のご想儀を執り行いたいと思います。行きましょう」
「宜しくお願します」
黒淵が僕に一瞬視線を合わせると、満足気に唇を持ちあげながら、タバコ片手に立ち上がった。



