──大丈夫。一人じゃないから。
(え? 黒淵の……声? )
温かさを感じると共に僕の心の中に今まで聴こえてこなかった想いが流れ込んでくる。
──これから宜しくね。寂しくないからね。
火華の唇は動いていないのにちゃんと声が心に届いて、目頭が熱くなりそうになる。こんな胸が痛くなるような、それでいて心地良い感情を両親以外に持つのは初めてかもしれない。
「返事は? 」
黒淵が唇を持ち上げる。僕の返事なんて分かってるくせに。そもそも僕の家を訪ねてきた時点で黒淵はこうなることを分かっていたんじゃないだろうか。僕が今までの哀しい想いを供養したとき、その空いたスペースを埋める何かを僕が無意識に探すことを。
僕は握られていない方の掌で、ポケットの中の芯だけになったリンゴにそっと触れた。
──人生なんてリンゴと一緒だ。さっきもらったリンゴもいつの間にか食べ終わってしまっていたように、長く思える人生も気づけば終幕を迎えている。もしそうならば、人生一度くらい他人と関わって他人を信じてみるのもいいのかもしれない。
「よろしく……」
「よくできました」
黒淵の言葉を合図に互いの掌を離した瞬間、夜空に浮かんでいた折り鶴が小さな星の雫のように光って消えた。
僕たちは顔を見合わせて笑うと今度は三人並んで、石階段を降りていく。
両親の死んだ日。それはとても辛く哀しい日であり僕の心が一度は死んだ日だ。でも僕の心の中が生まれ変わった日でもあるこの日を僕は生涯忘れることはないんだろう。
(え? 黒淵の……声? )
温かさを感じると共に僕の心の中に今まで聴こえてこなかった想いが流れ込んでくる。
──これから宜しくね。寂しくないからね。
火華の唇は動いていないのにちゃんと声が心に届いて、目頭が熱くなりそうになる。こんな胸が痛くなるような、それでいて心地良い感情を両親以外に持つのは初めてかもしれない。
「返事は? 」
黒淵が唇を持ち上げる。僕の返事なんて分かってるくせに。そもそも僕の家を訪ねてきた時点で黒淵はこうなることを分かっていたんじゃないだろうか。僕が今までの哀しい想いを供養したとき、その空いたスペースを埋める何かを僕が無意識に探すことを。
僕は握られていない方の掌で、ポケットの中の芯だけになったリンゴにそっと触れた。
──人生なんてリンゴと一緒だ。さっきもらったリンゴもいつの間にか食べ終わってしまっていたように、長く思える人生も気づけば終幕を迎えている。もしそうならば、人生一度くらい他人と関わって他人を信じてみるのもいいのかもしれない。
「よろしく……」
「よくできました」
黒淵の言葉を合図に互いの掌を離した瞬間、夜空に浮かんでいた折り鶴が小さな星の雫のように光って消えた。
僕たちは顔を見合わせて笑うと今度は三人並んで、石階段を降りていく。
両親の死んだ日。それはとても辛く哀しい日であり僕の心が一度は死んだ日だ。でも僕の心の中が生まれ変わった日でもあるこの日を僕は生涯忘れることはないんだろう。



