「……半分正解で半分間違いかな」

「半分? 」

火華は黒淵の横で折り鶴を折り終わると、小さな掌にそっと乗せて僕らの会話が終わるのを静かに待っている。

「リンゴはさ、人間と似てるんだよ。人間は生きてる限り常に『選択』を迫られる。その時は最善だと思う『選択』もあとから立ち止まった時にふと『後悔』に変わることもある。それでも人間である限り『選択』は一生続いていくんだ。愛斗……君が他人からの悪意が聴こえるコトをいつか他人の為に、自分にしか出来ないコトとして使って欲しいんだ。キミのこれからの人生の『選択』を『後悔』しないためにもね」

黒淵の言葉に火華が言葉を重ねた。

「愛斗……リンゴの実の花言葉は『後悔』。リンゴのは花言葉は『選択』だよ」

静かに凛と響く火華の声と共に、火華が手に持っていた折り鶴は発光しながら夜空へとふわりと舞い上がる。

(後悔しないための選択か……)

僕は夜空に向かって首を九十度曲げた。折り鶴はまるで生きているかのように自由自在に夜空を飛びまわり、僕らを見下ろすように旋回している。

「……ということで腹減ったよな。火華、何喰いたい? 」

黒淵が火華をのぞき込む。

「……あんぱん……」

「へ? 」

聞き間違いかと思った。素っ頓狂な声を上げた僕を見ながら黒淵がゲラゲラと笑った。

「お姫様はお仕事の後は糖分が必要でね。じゃあ愛斗、コンビニであんぱん買ってから、ファミレスいこうぜ」

「なんでファミレス? 」

黒淵は当たり前のように僕を食事に誘う。
でも不思議とそれが嫌じゃない。

「『選択』できるモノは多いほうがいいに決まってるでしょ」

「あっそ……別にいいけど」

「ほんと可愛い顔して可愛くねぇ言い方だな。早速言葉の『選択』まちがってんぞ」

「黒淵さん着いていって『後悔』しないか心配で」

「言うねー。もう俺らのこと信用してるくせに。素直じゃねぇのな」

黒淵はタバコを咥えると僕の額をツンと弾いた。

「痛っ!」

その瞬間クスっと声が聴こえた。その笑い声は間違いなく彼女から聞こえてきた声だった。

「え? 火華笑ったの……? 」

火華は僕を見上げると小さな掌を差し出した。

(握手……? )

「えっと……」

「ほら愛斗、これからよろしくだってよ」

「なに? よろしく? 」

黒淵が僕と火華の手を繋ぎ合わせるとその上から大きな掌を重ねる。