僕はいままで生きてきてどんなに辛く哀しい言葉を浴びせられても、苦しい耐え難い体験をしても涙を流すことができなかった。吐き出しきれない想いは、とうに心の箱から溢れていたのに、どこへも行けず心の奥底に影のようにシミのように僕を蝕み続けていた。
この想いをなくせたら、どんなにラクになれるだろうか?
ぼくは白い羽を一旦ポケットに仕舞うと両手で折り鶴を持ち、静かに瞳を閉じる。
瞳を閉じれば風の音と樹木の葉の揺れる音が合わさって、僕の耳元をそっと撫でていく。鼻から空気を吸い込み、口から吐き出すことを繰り返しながら僕は神経を研ぎ澄ませる。
そして水の中に潜るように意識の奥深くを見つめるように、自分の心を自分自身で暴いていく。海の底へと潜っていくように、だだっ広い空の中で雲をかき分けるように、土の中の暗闇をひたすらに這いつくばるように、僕は僕の中の哀しい記憶に想いを重ねて手繰り寄せてくる。
(これだ……)
僕は目を瞑ったまま、折り鶴の底からふうっと息を吹き込んでいく。
全ての哀しみを吐き出すように。
流せなかった涙を流すように。
(あっ……)
何度か息を吹き込んだ時、ふと心が綿菓子のようにふんわりと軽くなったのが分かった。
「……愛斗、カラスの羽を挿すんだ」
僕は膨らませた折り鶴に言われた通りカラスの白い羽を挿し込んだ。すると折り鶴が静かに発光する。
「え……これ……」
両手の中の折り鶴は光を放ちながら、藍色の空に向かってゆっくりと舞い上がっていく。そして僕の身長と同じ高さまで折り鶴が浮かんだと同時に火華が両手を自身の小さな口元に当てた。
「な……にする……の? 」
火華は僕の言葉など全く気にも留めずに、そのまま大きく息を吸い込むと折り鶴めがけて吹きかけた。
その瞬間だった。
ふんわりふんわり浮かんでいた折り鶴は火華から吐き出された呼吸に吹き上げられるように星空に向かって大きく飛び上がる。そして白銀の輝きを最後に折り鶴は燃え上がった。
「なっ……燃えた……? 」
「……愛斗、よく見とけよ。お前の想いの最期の姿だ」
黒淵の言葉を聞き終わるとすぐに燃えた折り鶴からは無数の黒い文字があふれ出す。その文字の羅列は不規則で脈絡もなく、なんの意味も持たないが確かに僕の中に長年蹲っていた哀しい思い出と想いの欠片だとすぐに気づく。
「僕の…… 」
大中様々の色々な書体が混ざった文字達は、どんどん高く高く空めがけて登っていく。もう肉眼では何の文字か判別できないほどの黒い点にしか見えなくなった頃、僕からあふれ出した黒い文字達は、クモの子を散らすように夜空に一斉に散らばり藍色の夜空に吸い込まれていくように音もなく消えた。
僕は黒い文字達が消えて、月と星しか見えなくなった夜空を暫く眺めていた。
「あ……」
この想いをなくせたら、どんなにラクになれるだろうか?
ぼくは白い羽を一旦ポケットに仕舞うと両手で折り鶴を持ち、静かに瞳を閉じる。
瞳を閉じれば風の音と樹木の葉の揺れる音が合わさって、僕の耳元をそっと撫でていく。鼻から空気を吸い込み、口から吐き出すことを繰り返しながら僕は神経を研ぎ澄ませる。
そして水の中に潜るように意識の奥深くを見つめるように、自分の心を自分自身で暴いていく。海の底へと潜っていくように、だだっ広い空の中で雲をかき分けるように、土の中の暗闇をひたすらに這いつくばるように、僕は僕の中の哀しい記憶に想いを重ねて手繰り寄せてくる。
(これだ……)
僕は目を瞑ったまま、折り鶴の底からふうっと息を吹き込んでいく。
全ての哀しみを吐き出すように。
流せなかった涙を流すように。
(あっ……)
何度か息を吹き込んだ時、ふと心が綿菓子のようにふんわりと軽くなったのが分かった。
「……愛斗、カラスの羽を挿すんだ」
僕は膨らませた折り鶴に言われた通りカラスの白い羽を挿し込んだ。すると折り鶴が静かに発光する。
「え……これ……」
両手の中の折り鶴は光を放ちながら、藍色の空に向かってゆっくりと舞い上がっていく。そして僕の身長と同じ高さまで折り鶴が浮かんだと同時に火華が両手を自身の小さな口元に当てた。
「な……にする……の? 」
火華は僕の言葉など全く気にも留めずに、そのまま大きく息を吸い込むと折り鶴めがけて吹きかけた。
その瞬間だった。
ふんわりふんわり浮かんでいた折り鶴は火華から吐き出された呼吸に吹き上げられるように星空に向かって大きく飛び上がる。そして白銀の輝きを最後に折り鶴は燃え上がった。
「なっ……燃えた……? 」
「……愛斗、よく見とけよ。お前の想いの最期の姿だ」
黒淵の言葉を聞き終わるとすぐに燃えた折り鶴からは無数の黒い文字があふれ出す。その文字の羅列は不規則で脈絡もなく、なんの意味も持たないが確かに僕の中に長年蹲っていた哀しい思い出と想いの欠片だとすぐに気づく。
「僕の…… 」
大中様々の色々な書体が混ざった文字達は、どんどん高く高く空めがけて登っていく。もう肉眼では何の文字か判別できないほどの黒い点にしか見えなくなった頃、僕からあふれ出した黒い文字達は、クモの子を散らすように夜空に一斉に散らばり藍色の夜空に吸い込まれていくように音もなく消えた。
僕は黒い文字達が消えて、月と星しか見えなくなった夜空を暫く眺めていた。
「あ……」



