黒淵はタバコを咥えたまま、境内の階段に堂々と腰かけると手を高く上げた。その瞬間に夜空から星を落堕とすように物凄い勢いで飛んできて、黒淵の手の先にふわり止まった生きものに僕は目を見張った。

「え……? 白い……」

「ん? 見るのはじめて? 白いカラスだよ。俺のペット」

黒淵は当たり前のように白いカラスから羽を一枚抜き取ると僕に差し出した。

「なんだよ……これっ……? 」

「はい、ご苦労様、お前はもう帰っていいよ……」

黒淵の腕に止まったままの白いカラスは黒淵の言葉を聞き終えると一鳴きすると直ぐに暗闇へと消えていった。

(また呼んで……か)

飛び立つ時、あの白いカラスはそう言った。黒淵とあの白いカラスがどういう関係なのか分からないが、あのカラスは黒淵のことを信頼している。鳥の言葉が分かる僕は黒淵とのやり取りをみてそう感じた。

(黒淵って……? )

「はい、愛斗くん余計な詮索はナシね。で、今から想儀のやり方説明するからね、よく聞いて」

(やっぱり……黒淵には心の声が聴こえてるんじゃないだろうか……? もしかして今のこの声も……? )

僕は何だか得体のしれない気持ち悪さを感じて、頭の中を空っぽにすると大きく深呼吸した。

「愛斗くん」

黒淵は立ち上がると、僕の掌の和紙でできた折り鶴を指さした。

「その白い折り鶴は特殊な薬品を和紙にしみ込ませて一枚一枚手すきで作ってある神聖なモノでね、その鶴にキミの消し去りたい『哀しい想い』を込めて息を吹き込むんだ。そのあと、このカラスの白い羽を膨らんだ背の部分に挿し込めば完了。あとは火華がちゃんと想いを供養してくれる」

黒淵は僕に白い羽を手渡すと、少し後ろに下がった。そしてゆっくりとタバコを砂利の上に落とすと踵で踏んで火を消した。

「……あの、哀しい想いってどういう風に? 」

僕は率直な疑問を黒淵に投げかけた。『哀しい想い』と一言で言われても、今まで溜まりに溜まった哀の感情は、もはやどれがどの時のもので、どのくらいの哀しみだったかなんてまで覚えていない。

そもそもこの折り鶴が、普通の折り紙よりもかなり大きいとはいえ、この中に想いをどうやって込めたらいいのかの全然分からない。黒淵が腕組みをすると小さく首を傾けた。

「それはキミが涙の代わりに溜め込んで、心の端っこにずっとこびり付いてるモノでしょ?具体的な事例や言葉は必要ない。ただ心の声を聴いて、そのこびりついてるモノを外へ追い出すように息を吹き込めば大丈夫なはずだよ」

黒淵の低い声に、火華が僕を安心させるかのようにほほ笑んだ。

(心にこびりついているモノか……)