カメラを構えて、ピントを合わせる。
 遠くに浮かぶ、黒い雲。

 さっきまでは星が見えていたのに、もうすぐ雨が降りそうだ。

 なんだか、今の気分にぴったりじゃないか。
 希望の象徴──星を覆い隠す、分厚い雨雲。

 シャッターボタンに指を乗せ、シャッターを切ろうとした、その瞬間。
 レンズ越しの世界の中に、薄いもやがかかった。

 霧でもかかり始めたのか、それか陽炎か。
 どちらにしろこの時間にはふさわしくない現象に、思わずカメラを下ろす。
 だけど、そこには何もなくて、ただ真っ黒な空があるだけ。

 怪訝に思いながらもう一度カメラを覗くと、今度は確かにもやがかかった。
 そのもやにピントを合わせてみると、リボンのような何かが見えてきた。
 ヒラヒラと揺れる青いスカートにシャツ。
 短い髪が風に揺れている。

 ……幽霊?

 そう思ったけど、違うみたいだ。
 確かに足が地面についていて、くっきりと輪郭が見えてきたから。
 ──さっきのはただのピンボケか。

「ねぇ、邪魔」

 そこにいるのがただの女子高生だと分かったら、腹が立ってきて、言葉がきつくなってしまった。

「そこにいたら、写真に入るんだけど」

 そこの女子はきょろきょろと首を振って、自分以外に人がいないことを確認する。
 彼女と視線がぶつかる。
 その大きな瞳は、絶望に染まっていた。

「……なんで……?」 

 絶望した瞳からは、涙がこぼれた。