──1色だけの写真なんて、目がおかしくなったみたいで気分が悪い。

 ──なんでわざわざ変な写真を撮るの? せっかく良いカメラを使っているのに……。

 ──君がその写真を「良し」とするなら、君、写真部は向いてないよ。


 そんな言葉を浴びせられることが普通だった。
 自分でもなんとなく、おれがとる写真は普通じゃないんだろうな、とは思っていた。
 だけど、それがおれの『作風』だ。
 それを否定されるのは、『個性』を否定されるみたいで、苦しい。

 岩城さんのメッセージは救いだった。
 おれの写真を「良し」としてくれた人。
 1人でも気に入ってくれる人がいるのなら、写真を撮り続けていようって、そう思った。

 あのころはちょうど、絶望に暮れていた時期だったけど、岩城さんのメッセージを読んだその日だけ、世界が煌めいて見えた。
 だから、その日の写真はカラフルな花畑の写真だった。

 でも、あれからもう二度と、色鮮やかな写真を撮っていない。
 ある出来事があってから、もう絶望なんてしたくないと思っていたから。

「……思い出したら、苦しくなるな」

 脳裏に焼き付いて離れない言葉が蘇ってきて、胸が締め付けられるような気分になる。

「写真、撮りに行こうかな」

 今の気分は──重い灰色だろうか。
 とにかく、学校にいては切り取ることのできない色だ。

 荷物をまとめて空き教室を後にする。
 すっかり日は落ちて、あたりは真っ暗だ。
 おれの求める色は、すぐに見つかりそうだった。