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 夏のぬるい風が吹き抜けていって、肩で切り揃えた短い髪を揺らす。
 たゆたう髪を手で押さえながら、屋上からの景色に目をやった。

 ──今日で、この景色を見るのも終わりなんだ。

 すっかり太陽は沈んで、空は真っ暗だ。
 星がちかちかと煌めいていて、遠くに街の明かりが見える。
 こんなときでも景色はすごくきれいで、なんだか残酷だ。
 空に浮かぶ月に瓶をかざしてみる。

 どれだけ努力したって、1位を取ることができなかったテストも、その努力を評価せずに弟ばかり褒めちぎる両親も。
 わたしの頑張りをやすやすと才能で超えていく部員の書道の腕も。増えていく『佳作』『入選』の賞状も。
 友達だって思いたいのに、本当に思ってることを打ち明けられないような関係も。

 全部全部、苦しかった。
 息が吸える場所があるのならって、何度も願った。

 瓶の栓を抜く。
 さらさらと溢れるパウダー。
 家から持ってきたパフにパウダーを纏わせて、ぽんと手の甲を叩いた。
 続け様に、腕を、足を、頰を、ぽんぽんぽんと叩いていく。

 みるみるうちに、指先から色が抜けていく。
 屋上のドアに映っていた人影が消えた。

 あぁ、わたし──。

「さよなら、できたね」

 どさりと床に倒れ込んで、空を見上げる。
 そして。
 恐る恐る、息を吸い込んだ。