*
もとの姿に戻っただけで疲れてしまって、リビングのソファに体を預けていると、何かが落ちる音がした。
「恵真……?」
仕事帰りらしい、記憶の中よりも少しやつれたお母さん。
ぎゅっと優しく抱きしめられた。
「おかえり。帰ってきてくれてよかった……」
お母さんの目は涙で潤んでいる。
そういえば、わたし、1か月以上姿を見せてなかったのか。
「薫ちゃんのお家にもおばあちゃん家にもいないし、家出するには長すぎだからね」
お母さんの優しさが沁みる。
弟ばっかりしか見ていないのかなって思ってたけど、そんなんじゃなかった。
わたしの思い込みだった。
お母さんは、ちゃんと心配してくれてた。
「ごめんね。……ありがとう」
お母さんの背中に手を回してから立ち上がる。
「わたし、行かなくちゃいけないところがあるの」
お母さんは目をぱちぱち瞬いてから、にっこりと笑ってくれた。
「気をつけてね。行ってらっしゃい。」
「うん。行ってきます」
沈みゆく太陽に照らされる街のオレンジ色が、とても綺麗だった。