月曜日。
 七海くんに酷いことをしてしまった。
 七海くんは公園に来ないと言った。


 火曜日。
 今日も七海くんは公園に来ない。
 七海くんを傷つけてしまったのかもしれない。


 水曜日。
 やっぱり今日も来なかった。
 体調を崩していないか心配だ。


 木曜日。
 もう二度と七海くんは公園に来ないかもしれない。
 会いたいな。


 金曜日。
 七海くんは元気にしているだろうか。
 学校まで会いにいくのは、何か違う。



 ノートに書き連ねた日々の記録を遡る。
 ここしばらくの日記は七海くんの話題ばかりだ。

 七海くんと最後に会ってから、もうすぐ1か月が経とうとしている。
 こうなった原因は分かりきっている。
 わたしのせいだ。

 七海くんを救うだなんて張り切って、空回りして、余計に傷つけて。

 ごめんなさいって、言えてない。
 
 わたしは人間関係を築くのが下手くそだ。
 無意識に笑顔の仮面を被ってしまって、本心をさらけだせない。
 わたしに責任があるのに、卑屈になって、距離を保とうとして。
 それで、また失敗した。

 生身の人間は、もろい。
 身を守る鎧がないから、人が発した言葉に簡単に傷つけられる。
 でも、それを守ることができるのも、生身の人間なんだ。

 今のわたしじゃ、七海くんを救えない。
 七海くんが視ようとしてくれなければ、わたしはただの空気同然だ。
 声だけは聞こえても、七海くんの目を見て話したい。

 だから、もとの姿に戻ろうと思う。
 消えるの、やめにしようと思う。
 少し息苦しかった世界と、七海くんがいない世界。
 その二つを天秤にかけたら、息苦しい世界なんてすごくちっぽけだった。

 それに、気付いたんだ。
 逃げているから、苦しくなるんじゃないかって。
 苦しさから遠ざかると、一時的に楽になれるけど、苦しさを抱えたままなのは変わらない。
 だから、世界から消えても息が吸えるようにはならなかった。

 元に戻ったら、ちゃんと向き合う。
 勉強も、部活も、人間関係も。
 目を逸らさずに、自分自身と向かい合うんだ。
 息が吸いたいなら、自分でもがいて、水面に顔を出さなきゃ。

 決意が定まると、恐怖なんて感じなかった。
 七海くんのため。そう思うだけでこんなにも力が湧いてくる。

 待っててね、七海くん。
 今度こそ、絶対に助けるよ。

 彼の優しい瞳を思い浮かべながら、水道の蛇口をひねった。