保健室のベッドで、誰にも見つからないように体を小さく縮める。
 生物室から逃げ出て、教室へ行こうとしたら保健の先生に「保健室で寝てなさい」と言われてしまった。
 鏡に映る顔は自分でも驚くほど青白くなっていて、温度を失っていた。

「また、いなくなるのかな……」

 ついに岩城に知られてしまった。
 あのことを知った人は皆、おれのことを化け物みたいな目で見る。
 もう、岩城の隣にはいさせてもらえないんだろうな。
 でも、彼女の顔を見ることすら、怖い。

 無機質な天井とピンク色のパーテーションをぼんやりと見つめる。
 キーンコーンカーンコーン、とチャイムの音が鳴り響く。

 あ、5限目始まる。

 頭ではそう思うのに、身体から力が抜けて、ベッドから動くことができない。
 欠課がついてしまう。
 クラスメートには仮病だって罵られ笑われるだろう。
 ──怖いな。
 何もかもが怖くて、世界が真っ黒だ。

 最初に世界から色が消えたのは、中学3年の秋だった。