世界からいなくなって、初めて夜を明かした。
半日くらい経っただろうか。
窓の外に見える、太陽に照らされる街はいつもと変わらない。
リビングから賑やかな声が聞こえる。
弟が起きてきて、朝ご飯を食べているんだろう。
わたしがいなくても家は活気に溢れている。そのことが虚しくてたまらない。
「ちょっとくらい心配してよ……」
とは言っても、お母さんには『薫の家に泊まる』と言ってあるから、心配する要素なんて微塵もないんだけど。
でも、学校がある日にお泊まりなんておかしいって、思ったりしないんだろうか。
「あぁもう! グダグダ考えるのやめ!」
底なし沼に沈んでしまいそうな思考回路を捨てて、制服のシャツに手を伸ばした。
スカートのシワをのばして、リボンのゆがみを直す。
姿は誰にも視えないけど、一応学校には行くつもりだ。
授業に置いていかれることだけは避けたい。
「行ってきます」
玄関を出るとき、振り向きざまに呟く。
でも、やっぱりそこに「行ってらっしゃい」はなかった。