「ねぇ、邪魔」

 カメラを持った男子が発した言葉は、わたしに向けられたものらしかった。

 消えたはずなのに。
 世界にわたしはいないはずなのに。

「……なんで……?」

 なんで、彼にはわたしが視えてるの?
 やっと解放されたんだって、楽になりかけていた心が強張った。

「あ、分かった! わたし、幽霊になったんだ。消えるってそういうことかぁ」

 涙で滲んだ目を無理矢理笑顔の形にして、できるだけ明るく振る舞う。
 そうだ。きっとそうだよ。
 わたしはちゃんと消えてて、あの子に霊感があるだけなんだ。

「ほんと、びっくりさせないでよ。それにしても、霊感がある人なんて初めて見た」

 彼は訝しげにわたしを見つめて、

「幽霊? そんなわけない」

 と言い捨てる。

「地面に足がついてる。透けてもないし浮いてもない。どこが幽霊だよ。──馬鹿なの?」

 一気に捲し立てた彼に、心臓が冷え込んだ。
 視えてるんじゃなくて、見えてる。
 つまり、わたしは消えてなんかいなくて、解放されたってのも、わたしの思い込みだったみたいだ。
 膝から力が抜け落ちて、地面に座り込んでしまった。

「……は?」

 上の方から、彼の声がする。

「消えた……」

 呆然と呟いた彼に、え、と小さな声が漏れる。
 彼はそのまま、カメラを覗き込む。
 わたしになんて、元から興味がなかったみたいに。

「──あ」

 レンズ越しに、彼がわたしを捉えた。
 彼はサラサラした色素の薄い髪をくしゃくしゃにかきむしる。

「幽霊とか消えたとか、意味不明すぎる。でも、話だけ聞いてやる。その代わり──」

 彼はくいっとカメラを持ち上げた。

「写真、撮らせて」