和国(わこく)より海を渡りて陰陽師(おんみょうじ)来たり──。


「陰陽師天御門 星(あまみかど せい)よ。はるばるよく来てくれた。わたしが庸国の皇帝雷烈(らいれつ)だ。そなたには後宮に現れる(あやかし)を退治してほしい」
「は、はい。精一杯務めさせていただき、ます」

 初めての謁見(えっけん)に緊張しながら、(せい)はどうにか挨拶することができた。

「まだ庸国(ようこく)の言葉に慣れておらぬのだな。かまわぬ。(おもて)をあげよ」

 必死に学んだ庸国の言葉であったが、ぎこちなさが残ってしまうようだ。恥ずかしさで体が熱くなるのを感じながら、星はゆっくりと顔をあげた。
 庸国皇帝の姿を見て、『気配を感じた』瞬間。
 星は悲鳴を上げそうになってしまった。どうにか耐えることができたが、すぐに手で口を塞がなかったら絶叫していただろう。
 若き皇帝が見惚れるほど美しい容姿をしていたからではない。

(この方は、庸国の皇帝陛下は……)

 心の声と体の震えまでは抑えられなかった。

(この気配は鬼だ。庸国の皇帝は鬼、なの……?)

 皇帝陛下のご尊顔を長く見つめるのは無礼であることも忘れ、星は雷烈から目をそらすことができない。
 目を瞬かせる星の様子をじっくりと眺めながら、雷烈は満足そうに微笑えんだ。

「そなたが来るのを待ちわびていたぞ。ようやく会えたな」

 若き皇帝の声を聞くと、体が熱を帯びるのを感じる。それだけ力の強い鬼ということなのだろうか。

(たとえ皇帝が鬼であったとしても。『私』は逃げるわけにはいかない。兄の(かたき)を討たなくては)

 和国より海を渡ってやってきた小柄な陰陽師。
 その正体は、亡き双子の兄の力を受け継いだ少女であった。