そして一通りシイナさんが説明を終えた後、一つ疑問に思ったことを尋ねた。
「戻るのはてっきり今日の朝とか火災の直前かと思ってました。
なぜそんなに前からやり直す必要があるんですか?」
「・・・樹形図には、あるポイントから遡ると、そのポイントに至る可能性を大きくする選択をした過去のポイントというのが必ず存在します。
“やり直し”というのはその“過去のポイント”というのを特定し、そこから始め直すことなのです」
「じゃあ、僕たちは出会ったこと自体が間違いだということなんですか?」
 あまりに理不尽な答えに寒気がした。
「“間違い”なんて言い方をしてはいけません。
ただ、“原因”なのです。」
 この会話の中で、その二つの意味の違いが僕には理解できなかった。
「正確には、出会ったこと自体が原因なのではありません。
“必ず二人が出会ってしまう原因”が葉山さんなのです」
「・・どういう意味ですか?」
 なんとなく理解ができたような気がしたが、決定打が欲しかった。
「冬野未羅に恋をすること。
これが葉山さんの運命です」
 それを聞いた時、すべてが理解できた。
 つまり、すべての原因が僕だったのだ。
 恋をするということは、必然的に二人は出会うことになる。
 僕のせいで、僕らは出会ってしまった。
 僕のせいで、僕らは恋人同士になった。
 僕のせいで、僕らは火災に巻き込まれた。
 僕のせいで、未羅が死んだ。
 理解できても、僕は認めたくなかった。
「で、でも、告白してきたのは未羅でした。
僕からじゃない。
それは、未羅が先に僕を好きになったってことじゃないんですか?」
「・・・本当にそうですか?
冬野さんが告白してこなかったら、あなたは何もしなかったと言い切れますか?」
 その問いかけに僕は答えられなかった。
「“運命”はそう単純なものじゃない。
冬野さんが何もしなくても、あなたは自分で自分を止められない。
そうなれば、あなたから行動に出るでしょう。
記憶を保持していようがいまいが関係ない。
記憶を保持していればむしろ思いは一周目より膨らみ、それはあなた自身を蝕むでしょう。
“運命”とは避けられないもの。
足掻こうとしても、バランスは保たれるものなのです。
世界はそうやって成り立っているのです」
 その時僕は、この“やり直し”の残酷さを理解した。
「・・・でも、出会うことが避けられなくても、必ず同じ道を辿るとは限らないんですよね?」
「はい」
「彼女が僕のことを拒めば、恋人同士にならない可能性もあるんですよね?」
「・・可能性についての明言はできません。
明言できるのは“運命”についてのみです。
申し訳ございません」
 自分が記憶を保持したまま未羅への気持ちを抑えつつ、平常心のまま“やり直し”をする自信が僕には無かった。
「・・この今のやり取りを隠すように未羅と僕の前で演技をしてもらうことは可能ですか?」
「それは可能です」
「じゃあ僕だけ先に“やり直し”を始めて、シイナさんと未羅の二人きりの時間を作ることは?」
「それも可能です」
「どうなるか知っていても、“運命”には抗えないんですよね?」
「はい、不可能です」
「じゃあ・・・僕は未羅に記憶を託します。
僕をどうにかできるのは、自分自身じゃなくて彼女です。
だからシイナさんと未羅の二人きりになった時、シイナさんには未羅を上手く説得してほしいんです。
情けない話ですけど、それが最善だと思います」
「・・わかりました。最善を尽くします」
 数秒後、突如未羅が僕の隣に姿を現した。

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