さあ、十月九日の放課後、ここまで来たからには今日だけは自分を押し殺すことなく空人君との時間を楽しもう。
そして、最終的な今日の目標は空人君の背中を押してあげることだった。
空人君が自分名前を好きだって思えるように。
なぜならそれは空人君の人格そのものに影響を与えることだから。
自分を変えたいと思っているのに、ここまで今の状態で来てしまった理由の根底には、彼の自分自身の名前に対する思いがあると私は思っていた。
それは一周目から随所に感じていたことで、実際私が“空人君の名前を好きだ”と言ってから、彼は私の前ではどんどん変化を見せてくれた。
その変わり様は、“空っぽの人”だなんて微塵も感じさせないほどで、私はそれを見るのが何よりの幸せだった。
きっとあの事故を乗り越えていれば、私の前だけじゃなくクラスメイトの前でもその変化を見せてくれたはずだ。
だからそれを見れなかったのがとても惜しい。
でもその原因は私にあるから、今回は私が与えるきっかけで“私以外の誰か”にそこからの変化を見せてくれれば、それでいいんだ。
そして、私は横から友達としてその変化を見守れれば本望。
そう心に誓っていた。
でも、このあと私は自分の考えがいかに“見当違いだったか”を思い知らされる。
一周目で私たちが付き合い始めたのはすべて“私からのアプローチ”があったから、私が先に空人君に恋をしたから、そう前提付けたのがそもそもの間違いだったのだ。
私が好きだと言わなければ、空人君が私を恋愛対象として見ることはない。
そう思っていた。
選択が変われば、その後の流れも変わる。
空人君が何もかも一周目と同じ理由なんて一つもなかったのだ。
というより、一周目とは異なる近づき方をしたことにより、空人君は既に変わり始めていた。
そして、この時の私はそれに気付けなかった。
◆◇◆◇
屋上で、手始めに私は一緒に音楽を聴く提案をした。
これは完全な思い付きだった。
さっき空人君が聴いてた音楽を思い出して、この提案をした。
まあ元から最初は何かワンクッション挟もうとは思っていた。
いきなり名前の話に持っていくのは不自然で怪しまれるかもと考えたからだ。そうすれば、話自体が予想もしない着地点に終着してしまうかもしれない。
「・・・どお?悪くないでしょ?」
一つのイヤホンを二人でシェアしながら聞いていた。別にスピーカーで聞けば良かったのだが、欲張ってしまった。
「ああ、確かに悪くない。世界から僕ら以外いなくなったみたいだ」
仰向けになり、雲一つない秋晴れの空を見ながら空人君は言った。
「確かにっ、でもそれは困るかもね」
「どうして?」
「お母さんのおいしい料理食べられなくなっちゃう」
「あははっ・・・最初に出てくる理由がそれ?」
その控えめに噴出す笑い方が空人君らしくて好き。
「そう。
お母さんの料理は世界一だから」
「素直でよろしい。
でもまあ、僕も困るな」
「へぇ。なんで?」
「んー、最近やっとやりたいことが見つかったから、かな」
空人君のその言葉に耳を疑った。
「えっ・・・何それ!?気になるーっ!」
一周目には無かった新たな展開に素で興奮してしまった。
「えっとぉ・・・内緒かな」
はっきりしないように空人君は言った。
当然と言えば当然だけど、その反応に少しむっとした。
「え~、そこまで言っておいてずるいよぉ。
スポーツとか始めたの?」
「そんなわけないだろ」
「えー、じゃあ将来の夢的な?」
私は尋問のように問い詰めた。
「んー、まあそれが実現に出来たらいいとは思うかな」
空人君の口から将来の夢について聞く日が来るとは思わなかった。
何が原因かは分からないけど、どうやら空人君は一周目よりも早い段階から変化しているようだった。
「へぇー、じゃあ今じゃなくていいから、いつかそれが叶ったら教えてね?」
嬉しく思うと同時に、その変化に起因しているのは恐らく私ではないということに少し胸が苦しくなる。
だって、私はまだ“何も”していないから。
私にその“いつか”は来るのかな。
「ああ、わかった。
その時はちゃんと教えるよ」
「壱也君はそのことについて知ってるの?」
「いや、壱にも言ってない。
冬野以外は知らないよ。
まったく、まいったな」
空人君は頭を掻きながら照れくさそうに言った。
「っ・・・そうなんだ。えへへ・・・」
私は、“私だけが”という事実に弱い。どうしても頬が緩んでしまう。
「な、なんだよ」
「じゃあ・・・私しか知らない空人君の秘密だねっ」
別に深い意味があって言ったわけじゃなかった。
だからその後に生じた僅かな沈黙にどのような意味があったのか理解するのに数秒要してしまった。
なんで黙ってるんだろう。
そう思い、空人君の方を見た瞬間理解した。
空人君は私に恋をしている。
しかも、“好き”という浅い度合いではない。
もっともっと深い度合いで。
これは自意識過剰なんかじゃない。
私を見つめるその表情は、忘れたくても忘れられない、脳裏にこびり付いたものだった。
思い出したくない記憶がフラッシュバックした。
そして、最終的な今日の目標は空人君の背中を押してあげることだった。
空人君が自分名前を好きだって思えるように。
なぜならそれは空人君の人格そのものに影響を与えることだから。
自分を変えたいと思っているのに、ここまで今の状態で来てしまった理由の根底には、彼の自分自身の名前に対する思いがあると私は思っていた。
それは一周目から随所に感じていたことで、実際私が“空人君の名前を好きだ”と言ってから、彼は私の前ではどんどん変化を見せてくれた。
その変わり様は、“空っぽの人”だなんて微塵も感じさせないほどで、私はそれを見るのが何よりの幸せだった。
きっとあの事故を乗り越えていれば、私の前だけじゃなくクラスメイトの前でもその変化を見せてくれたはずだ。
だからそれを見れなかったのがとても惜しい。
でもその原因は私にあるから、今回は私が与えるきっかけで“私以外の誰か”にそこからの変化を見せてくれれば、それでいいんだ。
そして、私は横から友達としてその変化を見守れれば本望。
そう心に誓っていた。
でも、このあと私は自分の考えがいかに“見当違いだったか”を思い知らされる。
一周目で私たちが付き合い始めたのはすべて“私からのアプローチ”があったから、私が先に空人君に恋をしたから、そう前提付けたのがそもそもの間違いだったのだ。
私が好きだと言わなければ、空人君が私を恋愛対象として見ることはない。
そう思っていた。
選択が変われば、その後の流れも変わる。
空人君が何もかも一周目と同じ理由なんて一つもなかったのだ。
というより、一周目とは異なる近づき方をしたことにより、空人君は既に変わり始めていた。
そして、この時の私はそれに気付けなかった。
◆◇◆◇
屋上で、手始めに私は一緒に音楽を聴く提案をした。
これは完全な思い付きだった。
さっき空人君が聴いてた音楽を思い出して、この提案をした。
まあ元から最初は何かワンクッション挟もうとは思っていた。
いきなり名前の話に持っていくのは不自然で怪しまれるかもと考えたからだ。そうすれば、話自体が予想もしない着地点に終着してしまうかもしれない。
「・・・どお?悪くないでしょ?」
一つのイヤホンを二人でシェアしながら聞いていた。別にスピーカーで聞けば良かったのだが、欲張ってしまった。
「ああ、確かに悪くない。世界から僕ら以外いなくなったみたいだ」
仰向けになり、雲一つない秋晴れの空を見ながら空人君は言った。
「確かにっ、でもそれは困るかもね」
「どうして?」
「お母さんのおいしい料理食べられなくなっちゃう」
「あははっ・・・最初に出てくる理由がそれ?」
その控えめに噴出す笑い方が空人君らしくて好き。
「そう。
お母さんの料理は世界一だから」
「素直でよろしい。
でもまあ、僕も困るな」
「へぇ。なんで?」
「んー、最近やっとやりたいことが見つかったから、かな」
空人君のその言葉に耳を疑った。
「えっ・・・何それ!?気になるーっ!」
一周目には無かった新たな展開に素で興奮してしまった。
「えっとぉ・・・内緒かな」
はっきりしないように空人君は言った。
当然と言えば当然だけど、その反応に少しむっとした。
「え~、そこまで言っておいてずるいよぉ。
スポーツとか始めたの?」
「そんなわけないだろ」
「えー、じゃあ将来の夢的な?」
私は尋問のように問い詰めた。
「んー、まあそれが実現に出来たらいいとは思うかな」
空人君の口から将来の夢について聞く日が来るとは思わなかった。
何が原因かは分からないけど、どうやら空人君は一周目よりも早い段階から変化しているようだった。
「へぇー、じゃあ今じゃなくていいから、いつかそれが叶ったら教えてね?」
嬉しく思うと同時に、その変化に起因しているのは恐らく私ではないということに少し胸が苦しくなる。
だって、私はまだ“何も”していないから。
私にその“いつか”は来るのかな。
「ああ、わかった。
その時はちゃんと教えるよ」
「壱也君はそのことについて知ってるの?」
「いや、壱にも言ってない。
冬野以外は知らないよ。
まったく、まいったな」
空人君は頭を掻きながら照れくさそうに言った。
「っ・・・そうなんだ。えへへ・・・」
私は、“私だけが”という事実に弱い。どうしても頬が緩んでしまう。
「な、なんだよ」
「じゃあ・・・私しか知らない空人君の秘密だねっ」
別に深い意味があって言ったわけじゃなかった。
だからその後に生じた僅かな沈黙にどのような意味があったのか理解するのに数秒要してしまった。
なんで黙ってるんだろう。
そう思い、空人君の方を見た瞬間理解した。
空人君は私に恋をしている。
しかも、“好き”という浅い度合いではない。
もっともっと深い度合いで。
これは自意識過剰なんかじゃない。
私を見つめるその表情は、忘れたくても忘れられない、脳裏にこびり付いたものだった。
思い出したくない記憶がフラッシュバックした。