“二周目”で空人君が自分にとってどんな存在なのかを再確認できた直後、私は既に知っているクラスメイトたちに再び挨拶をすることになった。
少しくらい見てても大丈夫だよね。
そんな軽い気持ちで空人君の横顔を人知れず盗み見ながら、
「初めまして。冬野未羅です」
と二歩前へ出て言った。
“一周目”の空人君のことを思っていたのが良くなかったのかもしれない。
少し油断をしていた。
私の声を聴いた瞬間、空人君は勢いよくこっちを見た。
やっばい。
急いで目を逸らしたけど、心の中はパニック状態だった。
“一周目”と違うじゃん。
そのあと、自己紹介で何と喋ったかは自分でも覚えていない。
ただただ正面を見ながら口を無意識に走らせ、気付いたらみんなが拍手をしていた。
どうやら変なことは言わなかったみたい。
一方空人君は気付けばまた窓の外を眺めていた。
危なかった。
だめだなぁ、私。
出だしからつまずきかけるなんて。
心のどこかで、私が知っている時をやり直すだけだと甘く考えていただけに、この時私は強く強く実感した。
“一周目”と“二周目”は全くの別物だと。
私のほんの少しの判断ミスが最悪の結果に繋がりかねないと。
◆◇◆◇
登校初日の夜、ニュースでは再び今朝の事故についての話題を取り上げていた。
「このような場では、一瞬の判断ミスが死に直結するんです。
楽しいからと浮かれてしまうのは分かりますが、危険だと感じた時は是非とも命を守る行動をとっていただきたいですね」
ニュースキャスターが締めくくりに放った言葉が、鋭いナイフのように心に切れ込みを入れた。
自分に向けられた言葉のように感じた。
ほんとにその通りだと思う。
あくまでもこのやり直しの目的は、“空人君を事故に巻き込まないこと”だ。
そのために自分にできることは何だろう。
一番安易な考えは、自分から空人君に近づかないことだった。
一周目では自分から空人君に接触したからつながりが出来ただけであって、それが無ければ、そもそも私たちは関わることはないだろう。
元はと言えば、私たちは正反対、“月と太陽”みたいなものなのだから。
どこまでも続く二本の線がただただ平行に伸びてゆくだけなんだ。
次の日からの行動指針が決まった私は、実際にその指針通りに動いた。
学校では一周目でも仲が良かったグループの人たちと一緒に行動して、なるべく一人の時間を作らないように努めた。
気を抜くと一周目の名残で、ふらりと空人君の方に行ってしまいそうだったから。
でも、その生活は想像以上に自分の首を絞めた。
単に空人君と話せないのが辛い、ということもあったが、一番辛かったのが、空人君がそもそも私のことを知らない、という事実だった。
近づかないようにしていても、同じクラスに居ればすれ違うことや事務的に関わらなければいけないことがある。
すれ違う時に私を認知しない。
プリントを渡す時に私の目を見ない。
その度に、一周目の空人君が私を呼ぶ声と、私を真っ直ぐ見つめる顔が脳裏に浮かんだ。
ねぇ、私たち一度は恋人同士だったんだよ?
お互いに思い合ってたんだよ?
なんで私のことを見ないの?
ねぇ、なんで?
分かっていても、一向にこちらを向かない空人君の顔を見て、そう思わずにはいられない。
たかがすれ違うだけなのに、たかがプリントを渡すだけなのに、それだけで私の心は少しずつ少しずつ死んでいくような心地がした。
そんな時だった。
授業中になんとなく空人君の方を眺めていると、見覚えのある表紙の小説を彼が読んでいることに気付き、懐かしさで頬がほころんだ。
そっか。
この頃の空人君はこの本に夢中だったんだ。
目を閉じると、それは鮮明に蘇ってくる。
喋っている先生の声がだんだんと遠のいてゆき、瞼の裏に映像が映し出されていく。
それは、私を幸せで満たしてくれる一周目の記憶だった。
少しくらい見てても大丈夫だよね。
そんな軽い気持ちで空人君の横顔を人知れず盗み見ながら、
「初めまして。冬野未羅です」
と二歩前へ出て言った。
“一周目”の空人君のことを思っていたのが良くなかったのかもしれない。
少し油断をしていた。
私の声を聴いた瞬間、空人君は勢いよくこっちを見た。
やっばい。
急いで目を逸らしたけど、心の中はパニック状態だった。
“一周目”と違うじゃん。
そのあと、自己紹介で何と喋ったかは自分でも覚えていない。
ただただ正面を見ながら口を無意識に走らせ、気付いたらみんなが拍手をしていた。
どうやら変なことは言わなかったみたい。
一方空人君は気付けばまた窓の外を眺めていた。
危なかった。
だめだなぁ、私。
出だしからつまずきかけるなんて。
心のどこかで、私が知っている時をやり直すだけだと甘く考えていただけに、この時私は強く強く実感した。
“一周目”と“二周目”は全くの別物だと。
私のほんの少しの判断ミスが最悪の結果に繋がりかねないと。
◆◇◆◇
登校初日の夜、ニュースでは再び今朝の事故についての話題を取り上げていた。
「このような場では、一瞬の判断ミスが死に直結するんです。
楽しいからと浮かれてしまうのは分かりますが、危険だと感じた時は是非とも命を守る行動をとっていただきたいですね」
ニュースキャスターが締めくくりに放った言葉が、鋭いナイフのように心に切れ込みを入れた。
自分に向けられた言葉のように感じた。
ほんとにその通りだと思う。
あくまでもこのやり直しの目的は、“空人君を事故に巻き込まないこと”だ。
そのために自分にできることは何だろう。
一番安易な考えは、自分から空人君に近づかないことだった。
一周目では自分から空人君に接触したからつながりが出来ただけであって、それが無ければ、そもそも私たちは関わることはないだろう。
元はと言えば、私たちは正反対、“月と太陽”みたいなものなのだから。
どこまでも続く二本の線がただただ平行に伸びてゆくだけなんだ。
次の日からの行動指針が決まった私は、実際にその指針通りに動いた。
学校では一周目でも仲が良かったグループの人たちと一緒に行動して、なるべく一人の時間を作らないように努めた。
気を抜くと一周目の名残で、ふらりと空人君の方に行ってしまいそうだったから。
でも、その生活は想像以上に自分の首を絞めた。
単に空人君と話せないのが辛い、ということもあったが、一番辛かったのが、空人君がそもそも私のことを知らない、という事実だった。
近づかないようにしていても、同じクラスに居ればすれ違うことや事務的に関わらなければいけないことがある。
すれ違う時に私を認知しない。
プリントを渡す時に私の目を見ない。
その度に、一周目の空人君が私を呼ぶ声と、私を真っ直ぐ見つめる顔が脳裏に浮かんだ。
ねぇ、私たち一度は恋人同士だったんだよ?
お互いに思い合ってたんだよ?
なんで私のことを見ないの?
ねぇ、なんで?
分かっていても、一向にこちらを向かない空人君の顔を見て、そう思わずにはいられない。
たかがすれ違うだけなのに、たかがプリントを渡すだけなのに、それだけで私の心は少しずつ少しずつ死んでいくような心地がした。
そんな時だった。
授業中になんとなく空人君の方を眺めていると、見覚えのある表紙の小説を彼が読んでいることに気付き、懐かしさで頬がほころんだ。
そっか。
この頃の空人君はこの本に夢中だったんだ。
目を閉じると、それは鮮明に蘇ってくる。
喋っている先生の声がだんだんと遠のいてゆき、瞼の裏に映像が映し出されていく。
それは、私を幸せで満たしてくれる一周目の記憶だった。