◆◇◆◇
私は小さい頃から存在するだけでもてはやされた。
ちょっと容姿がいいだけで、女友達からはまるで女王のように特別扱いされ、男友達からは絶え間なく色恋沙汰に巻き込まれ続けた。
クラスの人気者である男子から好意を寄せられ、それが周りに広まると、勝手にお似合いだとか言って、“二人をくっつけよう”運動みたいなものが起こる。
そんな環境で私は育った。
もちろん最初は嫌な気はしなかった。
私が何か意見を言えば、その場がまとまり、それが正となる。
三者面談の時はいつも先生に褒められた。
クラスのまとめ役となり、皆を引っ張る存在となっています、と。
でも、中学、高校と、心身ともに成長していくに連れて、私はその環境を枷と感じるようになった。
常に誰かに見られていて、評価されている。
もちろん私を取り巻く環境を快く思わない人も少なからずいることは分かっていた。
だからこそ、皆の望む私でいなければいけない。
たった一人の意見でも取りこぼしてしまえば、その人は私のそばから離れて行ってしまう。
それが積み重なると、私の周りには誰もいなくなってしまうのではないか。
だって、この世には、“好き”か“嫌い”かの二択しか存在しないのだから。
そんな風に考えるようになっていた。
小説が好きだということも誰かに言ったことなんてなかった。
周りが話すのは小説の主人公やその作者なんかのことではなく、好きなモデルや俳優、有名な配信者のことばかりだったから。
「そんなこと興味はないから、私の好きなものについてみんな話そうよ」
とはとても言えなかった。
本当はそんな面倒な事考えないで、自由に生きたい。
そう思っている心の内と、周りの機嫌を窺うような行動を取っている自分の身体の乖離を感じるようになり、その度に私の脆い部分をガリガリと削られるような心地がした。
転校の話をされたのは、そんな時だった。
その時の私は、二つの感情で揺れた。
今まで築き上げたものがすべて無駄になってしまう。
そう思う反面、誰も私を知らない土地で一から始められるという微かな希望が私の中で芽生えた。
しかし、その希望もすぐ打ち砕かれた。
私が引っ越すと知った直後、気付けばクラスでは私を除いた新たなグループが既に結成されていた。
仲間外れにされたとかそういうわけではなかったが、今までの私に対するみんなの態度は、私に取り入るための、いわば“演技”だったのだ、と思い知らされた。
もちろん、私から誘えば一緒に帰ってくれた。
でも、私を自ら帰り道に誘おうとしてくれる人は誰一人いなくなっていた。
仕方ない。
だって自分も周りに対して同じようなことをしていたんだから。
“演技”をしていたんだから。
そうやって自分に言い聞かせても、私がその時感じた失望を全て覆い隠すことは出来なかった。
自棄になり、取り繕うことをやめた。
取り繕うのをやめただけなら、まだよかったかもしれない。
私は引っ越すまでの二週間、クラスの人たちと関わることをやめた。
接触を自ら拒み、休み時間も一人で過ごした。
そしたら私が何年もかけてそこで築き上げたものは、たった二週間で跡形もなく消え去った。
私の付き合いが悪くなったという情報は、中学の頃の友達にも即座に届き、別れの挨拶すらすることはなかった。
へぇー。
ここまで綺麗に無くなるものなんだ。
そんな薄くて脆い薄氷のような関係に関心すら覚えた。
じゃあ結局、どこへ行こうとやることは一つなんだ。
自分を偽り続け、いかに多く他人の“好き”という感情を手に入れられるか。
これこそがうまくやっていく秘訣なんだ。
一周目の私は、そうやって“間違った正解”を抱えたまま、高校二年の後期から新たな学校へ通うことになった。
私は小さい頃から存在するだけでもてはやされた。
ちょっと容姿がいいだけで、女友達からはまるで女王のように特別扱いされ、男友達からは絶え間なく色恋沙汰に巻き込まれ続けた。
クラスの人気者である男子から好意を寄せられ、それが周りに広まると、勝手にお似合いだとか言って、“二人をくっつけよう”運動みたいなものが起こる。
そんな環境で私は育った。
もちろん最初は嫌な気はしなかった。
私が何か意見を言えば、その場がまとまり、それが正となる。
三者面談の時はいつも先生に褒められた。
クラスのまとめ役となり、皆を引っ張る存在となっています、と。
でも、中学、高校と、心身ともに成長していくに連れて、私はその環境を枷と感じるようになった。
常に誰かに見られていて、評価されている。
もちろん私を取り巻く環境を快く思わない人も少なからずいることは分かっていた。
だからこそ、皆の望む私でいなければいけない。
たった一人の意見でも取りこぼしてしまえば、その人は私のそばから離れて行ってしまう。
それが積み重なると、私の周りには誰もいなくなってしまうのではないか。
だって、この世には、“好き”か“嫌い”かの二択しか存在しないのだから。
そんな風に考えるようになっていた。
小説が好きだということも誰かに言ったことなんてなかった。
周りが話すのは小説の主人公やその作者なんかのことではなく、好きなモデルや俳優、有名な配信者のことばかりだったから。
「そんなこと興味はないから、私の好きなものについてみんな話そうよ」
とはとても言えなかった。
本当はそんな面倒な事考えないで、自由に生きたい。
そう思っている心の内と、周りの機嫌を窺うような行動を取っている自分の身体の乖離を感じるようになり、その度に私の脆い部分をガリガリと削られるような心地がした。
転校の話をされたのは、そんな時だった。
その時の私は、二つの感情で揺れた。
今まで築き上げたものがすべて無駄になってしまう。
そう思う反面、誰も私を知らない土地で一から始められるという微かな希望が私の中で芽生えた。
しかし、その希望もすぐ打ち砕かれた。
私が引っ越すと知った直後、気付けばクラスでは私を除いた新たなグループが既に結成されていた。
仲間外れにされたとかそういうわけではなかったが、今までの私に対するみんなの態度は、私に取り入るための、いわば“演技”だったのだ、と思い知らされた。
もちろん、私から誘えば一緒に帰ってくれた。
でも、私を自ら帰り道に誘おうとしてくれる人は誰一人いなくなっていた。
仕方ない。
だって自分も周りに対して同じようなことをしていたんだから。
“演技”をしていたんだから。
そうやって自分に言い聞かせても、私がその時感じた失望を全て覆い隠すことは出来なかった。
自棄になり、取り繕うことをやめた。
取り繕うのをやめただけなら、まだよかったかもしれない。
私は引っ越すまでの二週間、クラスの人たちと関わることをやめた。
接触を自ら拒み、休み時間も一人で過ごした。
そしたら私が何年もかけてそこで築き上げたものは、たった二週間で跡形もなく消え去った。
私の付き合いが悪くなったという情報は、中学の頃の友達にも即座に届き、別れの挨拶すらすることはなかった。
へぇー。
ここまで綺麗に無くなるものなんだ。
そんな薄くて脆い薄氷のような関係に関心すら覚えた。
じゃあ結局、どこへ行こうとやることは一つなんだ。
自分を偽り続け、いかに多く他人の“好き”という感情を手に入れられるか。
これこそがうまくやっていく秘訣なんだ。
一周目の私は、そうやって“間違った正解”を抱えたまま、高校二年の後期から新たな学校へ通うことになった。