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 この花火大会が行われる場所は、少し珍しい街並みをしていた。
 会場となる神社は敷地面積がかなり広く町の中心にあるため、その周辺の公共施設の外観もその神社に合わせるようにデザインされていた。
 歩道は石畳でできていて、等間隔で設置されている街灯は赤で塗られた灯篭の形をしている。
 明かりが灯るととても風情のある雰囲気に町中が包まれる。
 県外だけでなく国外からもたくさんの人が訪れるのはこれが理由だろう。
 普段からよくこの町を通る僕らにとってはそこまで珍しいものに感じないが、やはり日本の“和”を感じられる場としての物珍しさから夏の風物詩となっているわけだ。
「私も初めてここに来たときはびっくりしたな~。
町全体が歴史を感じさせるデザインになってて、すごい感動した!」
 人ごみの中、僕に手を引かれる未羅は嬉しそうに言った。
「あれ?去年の夏祭り来てたの?」
「あ、えーっと、違くて、転校してきてから友達とたまたまこっちの方まで来て、その時に!」
「なるほど。
未羅の家の方角だと学校行くのにここ通らないもんな。
いい場所だよな、ここ。
見慣れたけど、それでも僕もここ通るたびに穏やかな気持ちになるよ」
「空人君の家までの道のりでもここ通らなくない?」
「まあ普通はそうなんだけど、たまに考え事したいときとか一人で帰るときとか、あえてここまで遠回りしてこの景色見たりしてるんだよね」
「・・へぇー。そうなんだ。
それは知らなかったなぁ」
 垂れ落ちた髪を耳に掛けながら、そう言い微笑む未羅の横顔は妙に色気があった。
「そ、そういえばだいぶ人増えてきたな」
 動揺で話題を切り替えてしまった。
「うん、屋台も見えてきたし会場も目の前だしね」
「花火までは・・あと三十分か。
どこか興味ある屋台ある?」
「ん-・・あれ!」
 そう言い未羅が指さしたのは、大きくてカラフルな綿あめだった。
 ベタなものを選んだな。
 そう思いつつ、屋台に行くと屋台のおじさんが
「美人さんにはおまけだ」
とこれまたベタなセリフを言い放ち、未羅顔が見えなくなるくらい大きな綿あめを渡してきた。
「すごい大きいな・・」
「ねーっ、本当だね。
美人さんだってぇ~。
・・空人君妬いた?」
「妬くか」
 からかうように聞いてくる未羅に即答した。
 妬きはしないが、なんでそんなことサラっと言えるんだろう、僕ですら言ったことないのに、とは思った。
「あはは、そうだよね。
んっ!これおいしいよ!
・・ほら、空人君も!一口あげる!」
 無邪気に笑いながら、一口分手でちぎって差し出してくる未羅が可愛くてしょうがないが、恥ずかしいので手で受け取って食べた。
 ・・甘ったるい。
 今日は未羅に見惚れっぱなしだ。綺麗だったり、色気があったり、かと思えば無邪気だったり、可愛かったり。
 そういう表情一つ一つを見るたびに、何かを貰った気分になる。
 ただでさえいつも貰ってばかりで何も返せていないのに、今日はさらに貰いっぱなしだ。
 そんな僕だが、さすがに今日は全くの無策ではなかった。
 お礼として何かあげられるものはないか。
 そう思い、花火大会デートが決まってから考えに考えを重ねて今日に臨んだのだ。
「なあ、あと十五分で花火大会始まるけど、少し歩かない?」
「え?もう会場すぐそこだけど・・」
「いいから」
 そう言って僕は未羅手を引いて、今日のデートの仕上げに掛かろうとしていた。
「ねえ、どこいくの?花火始まるよ?」
 不審に思う未羅の手を引き、僕は会場を通り過ぎさらに奥まで突き進んでいた。
「もう少しだから。足、痛くない?」
「う、うん。足は平気だけど・・」
 そう、この先の小さな交差点を曲がると防護柵があり、そこから先は細くて人気のない歩道に切り替わる。
「ねぇ、ほんとにどこに行くの?」
 不安が頂点に達したような顔をしている未羅がそう言った時、ちょうど目的地に着いた。
「不安にさせてごめんね。ここ、上ったらわかるよ」
 擁壁と木々に覆われた中に、上に続く比較的長めの階段が一つあった。
 ここまで来て、何かを察した未羅は笑顔になり、
「うん、わかった」
とだけ言い、上り始めた。