真っ黒の皮の表紙で、背表紙共に銀色の文字で『大日本国中央政府機関 禁止言葉辞典』と印字してある。

「おもっ」

「宗弥そっち、持って」

学と宗弥が、棚から、そっと取り出すと床に置いた。

「本の形のパソコンみたいだね」

「あ、そういうことか」

「梨絵のいう通りだよ」 

学が、ふっと笑った。

「この本は機械が搭載されてて、恐らく自動で、書き換えるんだ、例えば今日の禁止言葉も追加されてたら、ビンゴだ」

三人で、その場にしゃがみ込み、頭を突き合わせると、重たい『禁止言葉辞典』を、床に置いて、ナ行を捲る。

「うわ、すごい」 

「随分と、詳細だ」

私と宗弥を見ながら、学が、黙々と辞典に視線を流していく。

「あった!」
私達の声が揃う。 

今日発表された、禁止言葉は『ない』だ。


ーーーー否定を表す、『ない』。しない、話さない、守らない、等。補足として、『ない』の音を、禁ずる。すなわち『な』と『い』を連続して含む言葉は、全て禁止言葉とみなす。

ーーーー願望を表す、『たい』。会いたい、見たい、話したい、等。補足として、『たい』の音を、禁ずる。すなわち、『た』と『い』を連続して含む言葉は、すべて禁止言葉とみなす。

ーーーー禁止を表す、『な』。見るな、知るな、聞くな等。補足として、『な』の音を含む言葉は、すべて禁止言葉とみなす。


禁止言葉についての文面が、ずらりと並ぶのを眉を顰めながら、学が、また次のページを捲る。