ガラッと扉が開くと、黒斑メガネでいつも無表情の、田所誠一(たどころせいいち)が、黒い名簿を抱えて入ってくる。

「起立、礼、宜しくお願いします」 

学の号令と共に、私と宗弥も頭を下げる。

「おはよう、今日の授業を始める」

ア行から順番に呼ばれていく生徒の名は、ほとんどが返事が帰ってこない。1年ほど前にいた30人ほどの生徒は、もはや、このクラスにも私達3人だけだ。

田所は、社会科の先生だ。礼和と呼ばれる時代から、おおよそ300年の時が過ぎ、現在は、大日本国中央政府機関が、日本全体を取り仕切っている。

田所は、何度となく繰り返し、大日本国中央政府機関の成り立ちや背景、その存在意義について、くどいほどに繰り返しの授業をする。

ところどころ、禁止言葉のせいで、音がなくなる耳障りの悪い授業にも、もう慣れた。

ようやく鳴り響く、チャイムの音は、私をいつも少しだけ、ほっとさせてくれる。

私は、田所が苦手だ。表情に乏しく、それでいて、何故だかヘビのような絡みつくような視線で、自分達生徒を見ているのだ。

ーーーーまるで監視するかのように。

「梨絵、大丈夫か?」

前の席の宗弥が、私を心配そうに、覗き込んだ。

「うん、大丈夫」

私と宗弥の席に歩み寄ってきた、学が小さな声で囁いた。

「なぁ、昼休みに、悠平(ゆうへい)が言ってた、図書館行ってみる?」

上原悠平(うえはらゆうへい)。先週、禁止言葉を口に出して、姿を消した。

「大丈夫?見つかったりし」

そこまで言った、私の口を慌てて、宗弥が再び塞ぐ。

「梨絵!いい加減にしろ、マジで!気をつけろよ」

「ごめん、宗弥……ありがとう」

肩を窄めた私に、宗弥は、黒髪の短髪を掻きながら、はぁぁぁっと、溜息を吐き出しながら、額をこつんと突いた。