「うっそ、また増えたの」

苺ミルクのパックに、ストローを差し込んで、唇を窄ませながら飲み干すと、本郷梨絵(ほんごうりえ)は、溜息を吐き出した。

「らしいぜ、朝の大日本国禁止言葉の速報が、掲示板に張り出されてたの見てきたから」

教室の窓辺から、全てを大日本国中央政府機関によって管理された人型ロボットが蠢き、あらゆることを監視、盗聴されるAI搭載型の防犯カメラが占拠する街並みを眺めながら、幼馴染の平井宗弥(ひらいそうや)が、ボソリとつぶやいた。

「宗弥、もう嫌だよ!ロボットに見張られた生活……うんざり」 

「だね、僕も限界」

振り向けば、学級委員の山下学(やましたがく)が、眼鏡をクイッとあげながら、呟いた。

「もう会話できるのも、わずかだね」

発する言葉に、全神経を注ぎながら、学が、喉元に埋め込まれたプレートを摩りながら、つぶやいた。

私も、自分の首元にそっとふれる。薄いの皮膚の上からでも分かる、小さな丸い金属片が喉元に埋め込まれているのだ。

「酷いよ……ゆるせ」 

そこまで言った私の言葉を、遮るように宗弥が、私の口元を強く押さえた。

「んんっ」

「それ。今日、発表された禁止言葉」

宗弥は、私の瞳をじっと見ながら、ゆっくり掌を、離した。 

「有難う」

「あぶね、宗弥。ギリ」 

学が、一瞬止まった息を吐き出した。

「……ねぇ、これ、取る、ことは、難しいよね?」

緊張から、たどたどしい言葉遣いで、私は言葉を紡ぐ。

「俺たちは、コレで管理されてるから。禁止言葉を発した途端に、コレが発動する、らしい」

「どう……るんだろう」

私は、不安げに、宗弥に訊ねた。

「分かる訳……だろ」

「だね」

言葉は、日々制限されていく。禁止言葉が発令されたら、口に出すことは許されない。

口に出した者がどうなるのか、誰も知らない。ただ、翌日姿を消すのだ。